第29話:知っている者たち
どうも、Rowun☾です
第29話「知っている者たち」です。
今回はついに、キースとエリシア――
“同じものを知っている側”同士の対話が描かれる回になります。
同じゲームを知っているからこそ、分かり合える部分。
そして、それでも決して交わらない考え方。
物語を守る者と、物語を壊す者。
その理由が、少しずつ見えてきます。
それでは、第29話をお楽しみください。
演習場のざわめきは、まだ完全には収まっていなかった。
「今の……なんだったんだ……」 「聖女様でも……止められないのか……」
視線は一人に集まる。
アルマ・ル・ヴァルディス。
当の本人は、何事もなかったかのように歩いていた。
「……つまらん」
それだけを残して。
「ちょっと待って!!」
キースが慌てて追いかける。
「今のなに!? え、あれ模擬戦の範囲超えてない!?」
「騒ぐな」
「いや無理でしょ!?!?」
アルマは振り返りもしない。
「お前が遅いだけだ」
「ひどい!!」
その後ろ。
エリシアは立ち止まっていた。
静かに、二人の背中を見つめる。
(……やっぱり)
(この人は、“そのまま”だ)
物語の中で見た通りの存在。
圧倒的で、孤高で。
そして――。
(このままだと、破滅する)
エリシアは視線を横へずらす。
キース。
(そして、この人)
(やっぱり、同じ)
「……キース様」
静かに呼ぶ。
キースが振り返る。
「え? あ、エリシア……」
アルマは先に歩いていく。
二人を気にする様子はない。
少し距離ができる。
人の気配が減る。
エリシアは、確認するように言った。
「……あなたも、ですよね」
キースの表情が止まる。
「……何が?」
「“知っている側”」
空気が、変わる。
キースは一瞬だけ黙る。
そして、小さく息を吐いた。
「……やっぱりか」
否定はしなかった。
できなかった。
エリシアの瞳が細くなる。
「この世界」
「アルカディア・レクイエム」
その名前を口にする。
「……プレイしてましたよね?」
キースは苦笑した。
「めちゃくちゃやり込んでたよ」
「攻略も全部見たし、ルートも全部知ってる」
一拍。
「……だからこそ、分かる」
エリシアが言う。
「今のは、全部“ズレてる”」
キースの表情が少し変わる。
「……ズレてる、っていうか」
「壊れてる、でしょ」
即答。
エリシアの声は、静かだった。
「あなたのせいで」
「……」
「本来、あなたはいない」
「アルマ様と関わることもない」
「この学園に来ることすらない」
言葉が、積み重なる。
キースは目を逸らさない。
「……そうだね」
否定しない。
「全部、分かってる」
その声には、迷いがなかった。
エリシアが一歩近づく。
「なら、どうして」
「戻そうと思わないんですか?」
「正しい物語に」
キースは少しだけ笑った。
「正しい、ね」
その言葉を繰り返す。
「それってさ」
「誰にとっての“正しい”?」
エリシアの眉がわずかに動く。
キースは続ける。
「このゲーム」
「アルカディア・レクイエム」
「知ってるよね」
「……もちろん」
「じゃあさ」
キースの声が、少しだけ低くなる。
「アルマのルート、どうなるかも知ってるよね」
沈黙。
エリシアは答えない。
だが。
その沈黙が答えだった。
キースは言う。
「バッドエンドだよ」
「ほぼ全部」
「破滅するか、孤独になるか、世界ごと壊すか」
淡々とした声。
だが、その奥に熱がある。
「だからさ」
キースは真っ直ぐに言う。
「俺は、それを変えたい」
「……」
「物語なんてどうでもいい」
「アルマが助かるなら、それでいい」
エリシアの瞳が揺れる。
(……やっぱり)
(この人は、“壊す側”)
「それは」
静かに言う。
「間違ってます」
キースの表情が少しだけ硬くなる。
「物語には意味がある」
「流れがある」
「結末がある」
「それを壊したら――」
一拍。
「もっと悪くなるかもしれない」
キースは小さく笑う。
「かもしれない、でしょ?」
「……」
「だったらさ」
「壊してみないと分かんないじゃん」
エリシアは何も言わない。
ただ、見つめる。
キースは続ける。
「俺はさ」
「推しが死ぬ未来、知ってて見てられるほど」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「大人じゃないんだよ」
沈黙。
エリシアはゆっくりと息を吐く。
(……理解できない)
(でも)
(分かってしまう)
同じだった。
彼女もまた、“オタク”だったから。
それでも。
「……だからこそ」
エリシアは言う。
「私は、止めます」
「あなたを」
キースは笑う。
「やってみなよ」
その瞬間。
遠くから声が飛ぶ。
「おい、キース」
アルマだった。
「行くぞ」
短い一言。
キースの動きが止まる。
一瞬の静止。
そして――
「――呼ばれた!!!」
勢いよく振り返る。
「アルマが俺を呼んだ!!!今!!!名指しで!!!」
テンションが爆発する。
「はい今行きます!!すぐ行きます!!むしろもう行ってます!!」
半分走り出しながら、エリシアの方を振り返る。
「じゃあね!!また後で!!!」
軽い声。
だが、その目は真剣だった。
エリシアは、何も言わなかった。
ただ。
その背中を見つめながら、思う。
(絶対に)
(物語は、元に戻す)
そして。
(そのために――)
視線が向く。
アルマへ。
(あなたを、正しく導く)
三人の立場は、完全に分かたれた。
――物語は、守る者と壊す者に分かれていく。
あとがき
第29話を読んでくださりありがとうございました。
キースとエリシア。
同じ“オタク”でありながら、真逆の選択をした二人。
エリシアは物語を守るために動き、
キースはアルマを救うために物語を壊す。
どちらが正しいのかは、まだ分かりません。
ただ一つ確かなのは、このままでは衝突は避けられないということです。
そしてアルマは――何も知らないまま、その中心にいる。
三人の関係は、ここからさらに加速していきます。
またね。




