第26話:甘い誘いと見えない罠
どうも、Rowun☾です
第26話「甘い誘いと見えない罠」です。
今回は学園の外、街での三人のやり取りがメインになります。
一見すると穏やかな日常回ですが、その裏ではしっかりと“動き”が出ています。
エリシアが少しずつ距離を詰め始め、
キースはそれに対して違和感と焦りを抱き、
アルマは変わらずのようでいて、どこか観察しているような立ち位置。
関係性の“配置”が、静かに変わり始めている回です。
それでは、第26話をお楽しみください。
ラザリオン魔術学アカデミー、放課後。
校舎の影が長く伸びる時間帯。
「……なあ、アルマ」
キースが隣を歩きながら、ちらりと視線を向ける。
「なんだ」
「今日さ、その……」
言いかけて、言葉が詰まる。
(昨日のあれ、どう考えても普通じゃなかったよな……)
だが。
うまく言葉にできない。
その隙を縫うように。
「アルマ様」
柔らかな声が割り込む。
キースの表情が一瞬で曇る。
(来た)
エリシア・ルクス。
今日も当然のように、そこにいた。
「本日、お時間ありますか?」
「ない」
即答。
キースがなぜか安心する。
(よし)
だが。
「……が」
アルマが続ける。
「暇つぶし程度なら付き合ってやる」
(なんでだよ!!)
キースの心の叫びが爆発する。
エリシアは微笑む。
「ありがとうございます」
その笑顔は、完璧だった。
――街。
ラザリオンの外。
石畳の通りに、賑わいが広がっている。
露店、魔導具店、甘い香りの漂う菓子屋。
「……え、マジで来たの……」
キースは未だに信じられなかった。
(推しとの休日イベント……のはずが……)
(なんでヒロイン付きなんだよ……)
一方。
エリシアは自然にアルマの隣へ立つ。
距離が近い。
絶妙に近い。
「アルマ様、こちらのお店ご存知ですか?」
「知らん」
「でしたらご一緒に――」
キースが割り込む。
「いやいやいや!! まず俺が先に――」
「……騒がしい」
アルマの一言で沈黙。
キース、撃沈。
店内。
焼き菓子の甘い香りが漂う。
「わぁ……」
エリシアが嬉しそうに微笑む。
(……あ)
キースが一瞬だけ違和感を覚える。
(なんか、今……)
だが、すぐに流れてしまう。
エリシアは一つ、菓子を手に取る。
「アルマ様、これなどいかがですか?」
「興味ない」
「では、少しだけ」
自然な動き。
距離を詰める。
指先が触れそうなほど。
「……」
アルマは無言。
拒絶しない。
その一瞬。
エリシアの瞳が、わずかに細くなる。
(……入った)
ほんのわずかな隙。
そこに、入り込む。
その光景を見て。
キースは完全に混乱していた。
(え、待って)
(なんであいつ距離詰めてんの!?)
(なんでアルマ拒否しないの!?)
(なにこのイベント!?)
頭が追いつかない。
その時。
アルマがぽつりと呟く。
「……つまらんな」
エリシアの手が止まる。
「え?」
「この程度か」
視線が向けられる。
その瞬間。
空気が変わった。
圧。
圧倒的な存在感。
エリシアの背筋がぞくりと震える。
(……っ)
(やっぱり、この人……)
本能が警鐘を鳴らす。
危険。
触れてはいけない領域。
だが。
それでも。
(……だからこそ)
「では」
エリシアは、あえて踏み込む。
「アルマ様は、どんなものがお好きなんですか?」
キースが息を呑む。
(行った……!!)
アルマは、少しだけ考える。
「……静寂」
「……え?」
「くだらんものがない空間だ」
一瞬の沈黙。
キースがぽつりと呟く。
「じゃあ俺アウトじゃん……」
「最初からそう言っている」
「ひどい!!」
エリシアは微笑む。
だが、その内側では。
(やっぱり、普通じゃない)
(好みも、価値観も)
(“攻略対象”としてのパターンが通用しない)
だが。
(それでも)
(崩せる)
その確信があった。
その帰り道。
三人は再び並んで歩いていた。
だが。
キースは気づいてしまう。
(……なんか)
(距離、変わってないか?)
アルマの隣。
ほんのわずかに。
エリシアが近い。
自然に。
当たり前のように。
その位置を取っている。
(……やばい)
キースの胸に、妙な焦りが広がる。
(これ……取られる……?)
何を。
とは言えない。
だが確実に。
何かが。
前を歩くアルマは、何も言わない。
だが。
その紅の瞳だけが、わずかに細められていた。
――甘い誘いは、静かに牙を隠している。
あとがき
第26話を読んでくださりありがとうございました。
今回は大きな事件は起きていませんが、
三人の距離や立ち位置に変化が出てきました。
特にエリシア。
彼女は確実に「攻略する側」として動き始めています。
一方でキースは、自覚のないまま“奪われる側”に立たされつつあり、
その違和感が少しずつ形になり始めました。
そしてアルマ。
変わらないように見えて、実はすべてを見ている存在です。
この静かな変化が、次の展開へと繋がっていきます。
またね。




