第20話:封黙の授業
こんにちは、Rowun☽です
ラザリオンでの学園生活も、少しずつ日常が見えてきました。
今回の第20話は、ついに授業シーンです。
……が、キースが普通に授業を受けられるはずもなく。
ある意味で、彼が「成長(?)」するきっかけになる出来事が起きます。
アルマの教育(制裁)も、相変わらず容赦がありません。
それでは、第20話をお楽しみください。
ラザリオン魔術学アカデミー。
荘厳な石造りの教室に、講師の低くよく通る声が反響していた。
「――では、《魔素干渉》とは何か。説明できる者はいるか?」
静寂が返ってくる。
張りつめた空気の中、羽ペンが紙を滑る微かな音だけが教室に残っていた。
その均整の取れた空気の中に、ひとつだけ異質な存在があった。
キース・ヴァレンタイン。
光と闇という、相反する二つの属性を内包する稀有な魔導の才能。
――にもかかわらず、彼の頭の中には今、魔法理論の欠片も存在していなかった。
(……今日のアルマも、美しすぎて理不尽……!)
(この横顔……尊い。眉のライン、まるで神の彫刻……)
(指先にまで宿る魔力……いやもう美の暴力……)
完全に、隣席のアルマ・アルカディアを凝視していた。
「……キース・ヴァレンタイン。答えてくれるか?」
「えっ!? あ、はい!? えっと……ま、魔素とは……アルマの息遣いを運ぶ……精霊の風……?」
教室に、完全な沈黙が落ちた。
数秒。
誰も動かない。
「………………帰れ」
講師の静かな怒声が響いた。
その瞬間、ノートを走らせていたアルマの手がぴたりと止まる。
透き通るような白肌。
深紅の瞳。
冷えた視線が、ゆっくりとキースに向けられた。
「……あ、あれ、王子? 怒ってます……?」
「……怒っていないと思ったのか?」
「うわあぁっ!? ち、ちが……違くはないけど! 君が隣にいるから! つい! 目が勝手に!」
「お前の目玉は独立思考型生命体なのか」
「ある意味そうかもしれない……君を追い求める意思を持ってるから……」
「無意識に殺意湧くからやめろ」
その時。
授業終了の鐘が鳴った。
アルマは静かに立ち上がり、キースの机の前で立ち止まる。
「いい加減にしろ」
冷たい声。
「お前の視線のせいで授業内容が頭に入らない。害悪だ」
「で、でも……王子の後ろ髪が……授業より尊いというか……」
「喋るな」
アルマが言う。
「二秒だけ目を閉じていろ」
「うん! いいよ!! 王子の命令なら!!」
キースが素直に目を閉じる。
――パチン。
小さく指が鳴った。
赤い魔眼が、一瞬だけ煌く。
空間が震えた。
魔眼――封黙。
キースの身体がぴくりと震える。
次の瞬間。
喉がきゅっと締め付けられたような感覚が走った。
「……お前の集中力を“学びにのみ強制固定”してやった」
アルマが淡々と言う。
「次回も集中しなかったら、永続で固定する」
「――!?」
声が出ない。
叫ぼうとしても、喉が動かない。
まるで“黙れ”と世界そのものに命じられたかのようだった。
「喜べ」
アルマが言う。
「ついに人間になれたな」
声は出ない。
だがキースの思考は止まらなかった。
(で、でも……これって……)
(変なこと口走って怒られるリスクが激減するってことでは!?)
キースは悟った。
(喋れないって……自由じゃないか……!)
その日。
キース・ヴァレンタインは覚醒した。
「――では、《魔素均衡式》の基礎定理について説明するぞ」
講師の声が再び教室に響く。
その中で。
一人だけ、異様な熱量を放つ生徒がいた。
キースである。
(だ、大丈夫……!)
(口がきけないなら……やれる……!)
(授業に……集中……するだけだ……!!)
今、彼は黙っている。
喋れない。
それでも――
彼は、今、真に学んでいた。
「……ようやく静かになったな」
アルマが小さく呟いたその時。
二度目のチャイムが鳴り響いた。
生徒たちが教室を出ていく。
その流れの中。
ガタン!!
異様な音が響いた。
振り返ると――
キースが机の前で土下座していた。
(ああああああっっっ!!)
(俺がっ……アルマの声を聞けない世界線に突入っ……!!)
喋れない。
伝えられない。
だからこそ、全身で訴えるしかない。
床に額を叩きつける勢いの土下座だった。
「……何をしている」
ざわめく教室。
「えっ……あの子、王子に土下座……?」
「ストーキング……また……?」
「ひぃっ……命知らず……」
アルマは溜息を吐いた。
「……今日中は解除しない」
冷静に告げる。
「問題がなければ、明日、考えてやる」
(!?!?!?!?!?)
キースの顔面が蒼白になる。
膝が震えた。
「なお」
アルマが付け加える。
「お前の“問題”の定義は、俺が決める」
(詰んだあああああああああああああ!!!!)
――その日のキース・ヴァレンタイン。
授業ノート三冊を魔法理論でびっしり埋めた。
だが教科書の余白は、すべて「アルマ」の名前で埋め尽くされていた。
さらに授業中に感極まって泣き、廊下で他の生徒に「どうしたの?」と聞かれ、ジェスチャーで説明しようとして余計に警戒される。
寮の部屋では、黙って水を差し出したアルマに感動して膝から崩れ落ちた。
その様子を見て、アルマがぼそりと呟く。
「……もう一生黙らせておいても良い気がする」
少し間を置き。
「……はぁ。まぁいい」
そして小さく言った。
「次やったら、本当に口を縫う」
あとがき
第20話を読んでくださりありがとうございました。
ついに授業が始まりましたが、キースは相変わらずアルマに夢中でした。
そして結果として、アルマによる“強制集中モード”が発動することに……。
本人にとってはかなり大事件ですが、ある意味では初めてまともに授業へ集中できた日でもあります。
少しずつですが、ラザリオンでの学園生活やキャラクター同士の関係も広がっていく予定です。
ブックマークや感想、本当に励みになっています。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
またね。




