第1話:運命を捻じ曲げた者
初めまして、またはお久しぶりです
Rowun☽です。
この作品は、
「推しが救われない物語なんて認めない」
そんな気持ちから生まれた物語です。
乙女ゲームの隠し攻略対象。
どんなルートでも最後には死んでしまうキャラクター。
もし、その運命を知っている人間が
その世界に入り込んだらどうするのか。
推しを救うためなら、
物語の運命さえ壊してしまう主人公と、
孤独な王子の物語です。
ゆっくり更新になるかもしれませんが、
楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第1話。
**「運命を捻じ曲げた者」**です。
それは、突然の終わりだった。
教科書の詰まった重たい鞄を片手に、いつも通りの帰り道。
空は朱に染まり、夕暮れの風が頬をなぞる。
片手に握られたスマートフォンの画面には――。
『アルマ死亡END』という、冷たく突き刺さるような言葉。
最推しキャラの、最悪の結末。
何周もしたゲームの実況を見て、分かっていたはずだった。
――でも、理解したくなかった。
「……うっそ、だろ……? また……また救えなかった……」
その瞬間だった。
光。轟音。衝撃。
思考が断ち切られ、全身が宙に浮く感覚。
飛び散るスマホの画面。吹き飛ばされる身体。
視界が白く、遠く、どこまでもぼやけていく。
最後に希一の脳裏をよぎったのは、あの赤い瞳の少年の姿だった。
美しく、哀しく、救いを求めるような瞳。
――そして、世界は暗転した。
風が吹いていた。
土の香りと、湿った木々の匂いが鼻をくすぐる。
希一はゆっくりと目を開ける。
目に飛び込んできたのは――深い深い、翡翠色の森。
空は抜けるように青く、雲一つない。
幾重にも枝を重ねた巨木が天を覆い、風に揺れる葉が光をちらちらと落としている。
小鳥のさえずりが、どこか幻想的で、現実とは思えない。
まるで――ゲームの中の、フィールドマップのような風景。
「……っ、あ、れ……?」
まぶたの裏に差し込む光。
鳥のさえずり。草の匂い。冷たい土の感触。
身体を起こした希一は、思わず周囲を見回す。
そこは、見知らぬ森の中だった。
「どこ、だ……ここ……? え、え?」
希一は呻くように呟いた。
その時だった。
空気が――変わった。
冷たい。いや、「重い」。
森の奥、音もなく現れた“それ”に、希一は気づいた瞬間、凍りついた。
黒革のような鱗に覆われた巨大な四足獣。
肩からは曲がった角が二本伸び、口元には牙がはみ出している。
その体躯は人間の二倍以上。獣のような脚、蠍のような尾。
目は三つ、赤く燃える瞳が、明らかにこちらを“獲物”として認識していた。
「……っ!? なんだ、あれ……魔物!?」
牙を剥いた化け物のような生物が、咆哮と共に迫ってくる。
足がすくむ。しかし恐怖は、そのすくんだ足を無理やり動かす。
「無理無理無理無理無理!!! 死ぬッ!! また死ぬッ!!!」
本能的に全力で逃げる。息が切れ、足がもつれそうになる。
「夢か!? 夢なら……早く覚めてくれよっ!!」
全力で走る。叫ぶ。心臓が爆発しそうになる。
夢だと信じたかった。現実じゃないと、思いたかった。
枝を踏み、草をかき分け、もつれる足で転びそうになりながらも、ただひたすらに走る。
木々が続く、どこまでも似たような風景。
どこかで小動物の鳴き声が響くたびに、心臓が跳ねる。
だが、奇跡のように──視界が開けた。
そこには、ひとつの湖が広がっていた。
鏡のように澄んだ水面が、風を受けて揺れている。
希一は倒れ込むように湖の縁へと駆け寄り、両手で水をすくった。
「……はぁ……はぁ……っ……水……冷て……っ……」
そして、ふと顔を上げ――水面に映る“それ”を見た。
「…………え?」
黄金色の髪。
エメラルドの瞳。
完璧な造形美を備えた、誰が見ても“英雄”と呼ぶに相応しい姿。
希一……いや、“彼”は、目の前の映像が自分自身であることを理解するのに数秒を要した。
「お、おい……なんだよこれ……俺、キースになってる……?」
自分の声も変わっていた。澄んだ、よく通る声。
脳裏に蘇る記憶。何度も遊んだRPG。あのゲーム。
「まって……待ってくれ……ってことは……」
喉の奥が熱くなる。
キース・ヴァレンタイン。
自分が憧れ、愛し、見届けてきた“推し”の物語の主人公。
ならば、この世界は――。
「……っ、アルマがいる!!」
稲妻のように胸を駆け抜けた感情。
あの赤い瞳に、もう一度出会えるという確信。
立ち上がったキース――いや、元・希一は叫んだ。
「よっしゃあああああああああああ!!! 推しに会いに行くぞおおおおおお!!!!」
湖に轟く歓喜の声。
彼の瞳には、光が戻っていた。
「絶対に……絶対に救ってやるからな……今度こそ、お前を……!」
その言葉が、どこか遠くで目覚めかけた“運命”の心臓を震わせた。
第1話を読んでいただきありがとうございます!
ついに主人公・希一が
乙女ゲーム『アルカディア・レクイエム』の世界に転生しました。
しかも転生先は、
推しを殺す運命の英雄――キース・ヴァレンタイン。
推しを救うために運命をぶち壊そうとする
オタク主人公の物語がここから始まります。
次回は、森を抜けて街へ向かうキースが
この世界について少しずつ理解していく回になる予定です。
そして、少しずつ
乙女ゲームの世界らしい要素も出てきます。
よければ感想や応援などいただけると、とても励みになります!
それではまた次回、
第2話でお会いしましょう。
またね




