第13話:筆記試験
どうも、Rowun☽です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
第13話では、いよいよアカデミー入試の筆記試験です。
キースにとっては人生を左右する試験……のはずですが、推し(アルマ)が隣にいる時点で色々と大変なことになっています。
そして今回は、アルマ・キース・エリシアの三人が同じ空間に並ぶ最初のシーンでもあります。
原作の物語では本来起こらないはずの状況。
少しずつ歪み始めた運命が、どこへ向かうのか──。
ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
試験棟の廊下。
エリシア・ルクスは、キースとアルマの隣を静かに歩いていた。
魔力測定を終えた受験者たちは、それぞれ筆記試験の教室へ案内されている。
だが――。
キースだけは、明らかに様子がおかしかった。
(ヒロインだ……)
(ヒロインが隣にいる……)
(アルマとヒロインが並んで歩いてる……)
(これ原作イベントじゃない!?)
冷や汗がだらだら流れている。
一方、アルマはと言えば。
まったく興味がない様子だった。
淡々と歩きながら、視線すらほとんどエリシアへ向けない。
その姿を横目で見ながら、エリシアはわずかに首を傾げた。
(……やっぱり変)
彼女の知っている物語では。
この時期のアルマは、誰とも並んで歩かない。
孤立している。
誰にも近づかない。
それが《アルカディア・レクイエム》序盤の王子だった。
けれど今、彼は。
――この少年と並んで歩いている。
キース・ヴァレンタイン。
(……どうして?)
その違和感を抱えたまま、三人は教室へ入った。
試験会場。
整然と並んだ机に、魔法アカデミー《ラザリオン》を志す受験生たちが、緊張に満ちた面持ちで座していた。
その中でも、異様な存在感を放つ二人。
キース・ヴァレンタインとアルマ・ル・ヴァルディスは、偶然にも隣席だった。
試験開始、十分前。
キースは手の震えを隠しきれないまま、羽ペンを握りしめる。
そして、隣をちらりと見て――声を殺して懇願した。
「アルマ……お願い! あと五分だけ……頼む、出そうなとこ教えて……! 死にたくないッ……!」
アルマは一度だけ視線を向ける。
「……仕方ないな」
小さく息を吐いた。
「喋るな。念話で送る」
指先が軽く動く。
その瞬間、キースの意識の奥に、静かな声が直接響いた。
《今年の出題傾向から見て、“魔力変質理論”は可能性が高い》
《あとはこの語句……》
知識が、理路整然とした思考ごと流れ込んでくる。
「すご……本当に……脳に直接……!!」
キースは震えた。
「尊い……っ、これが甘やかし念話……!」
「……いいから集中しろ」
アルマは淡々と言う。
「どうせ試験中、また思考が吹き飛ぶんだ。今のうちに詰め込め」
「うぐっ……尊さで今すでに思考飛びそう……!」
限界オタク、涙目。
だが目だけは真剣だった。
推しの愛(?)を燃料に、魔界王子による試験直前の追い込みレクチャーに、必死で食らいつく。
そして――。
試験開始。
羊皮紙が配られる。
そこには、魔法学理論、魔法史、古語詠唱解読、アルカディア理論など、多岐にわたる設問が並んでいた。
カリカリ……。
静寂の中、羽ペンの音だけが響く。
開始から二十分ほど。
アルマ・ル・ヴァルディスは、すでにすべての解答を書き終えていた。
そのまま机に身を預け、窓の外へ視線を向ける。
そして――指をひらりと振る。
魔力の糸が繊細な紋様を描いた。
花弁のような魔法陣。
そこから、光の蝶が生まれる。
宝石のような輝きをまとった蝶が、優雅に舞った。
「……試験中に遊んでるぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ……!!!!!」
隣のキース、声にならない悲鳴。
(速すぎる……)
(かっこよすぎる……)
(演出が王子様すぎる……)
(好き……)
冷や汗をかきながらも、キースはペンを止めない。
だが――。
アルマから教わった範囲以外の問題は、見事に分からない。
(……ええい、もう知らん!!)
キースは答え欄に書き始めた。
“この魔法理論を初めて体系化した人物は?”
→ アルマ・アルカディア
“魔法史における七大転換点を列挙せよ”
→ アルマがすごいから全て許される
“詠唱詩文の解釈について記述せよ”
→ アルマが詠えばすべて正解(真理)
“次元干渉型魔法の危険性について述べよ”
→ アルマ様がやれば安全です
アルマはそれに気づいていたが、何も言わない。
代わりに、光の蝶をもう一羽増やした。
ひらひらと舞う光。
そして――。
試験終了の鐘が鳴る。
「……終わったぁぁぁ……色んな意味で……」
キースは机に突っ伏す。
そして、こっそりアルマを見る。
光の蝶が、静かに舞っている。
(……机の上で蝶を飛ばすとか)
(どういう王子様……?)
(好き……尊い……)
今日もまた。
キースの魂は、推しへの敬意で焼かれ尽くされていた。
――そして。
数列後ろの席から。
その光景を静かに見ている少女がいた。
エリシア・ルクス。
彼女は、わずかに目を細める。
(……やっぱり)
(この二人)
(物語と違う)
あとがき
第13話を読んでくださりありがとうございました。
筆記試験なのに、机の上で蝶を飛ばしている魔界王子と、
その隣で限界オタク状態になっているキースを書くのがとても楽しかったです。
そして、エリシアの視点から見る「原作と違う世界」も、これから少しずつ描いていけたらと思っています。
三人の関係がここからどう変わっていくのか、
今後の展開もぜひ見守っていただけると嬉しいです。
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またね。




