プロローグ:アルカディアに誓って、運命を殺す。
この世界には、どうしても納得できない物語がある。
どれだけ愛しても、どれだけ理解しても、最後には必ずその人が死ぬ――そんな結末が決まっている物語だ。
『アルカディア・レクイエム』。
それは美しく、残酷で、そして多くのプレイヤーを泣かせた乙女ゲームだった。
その中でも、ひときわ悲しい運命を背負ったキャラクターがいる。
世界の核と呼ばれ、孤独の果てに闇へ堕ち、最後には英雄に討たれる少年。
アルマ・ル・ヴァルディス。
彼の最期は、確かに美しい。
けれど――どうしても納得できなかった。
だからこれは、
そんな結末に反逆する物語。
運命が決めた結末を壊すための、
ただ一人のオタクの、無謀な戦いの記録である。
ここは、《アルカディア・レクイエム》という名の、大人気乙女ゲーム。
ダーク。ロマン。バトル。そして、感情劇。
魔法と剣、貴族と革命、愛と裏切りが交錯する世界。
プレイヤーが操るのは、聖女の少女。
彼女は魔術学アカデミーに入学し、青年たちと出会い、恋に落ちる。
そしてやがて、この世界の核心へと辿り着く。
――《アルカディアの核》。
その名は、アルマ・ル・ヴァルディス。
漆黒の髪、深紅の瞳、透き通るような白い肌。
王族として、魔族として、生まれながらにして圧倒的な力を持つ存在。
人々は彼をこう呼んだ。
「アルカディアの完全体」。
だが、その力はあまりに強すぎた。
彼は人として扱われなかった。
兵器。
災厄。
世界を滅ぼす存在。
そして――
どんなルートでも。
どんな選択肢でも。
彼の結末は変わらない。
聖女の浄化。
英雄の剣。
その二つによって、彼は最後に殺される。
それが、このゲームの運命だった。
「……こんなの、納得できるわけないだろ」
高峰希一は画面を見つめたまま呟いた。
アルマは悪人じゃない。
むしろ、誰よりも優しい。
ただ――
世界が彼を恐れただけだ。
「……もし俺が」
ぽつりと呟く。
「もし俺がこの世界にいたなら」
画面の向こうの少年を見つめる。
「絶対に、そんな結末にはさせない」
その瞬間だった。
視界が白く弾けた。
――ブレーキ音。
――衝撃。
――遠ざかる意識。
そして、次に目を覚ました時。
見慣れない天井が視界に映った。
狭い部屋。
質素な家具。
窓の外には、石造りの街並み。
そして、鏡に映った少年の顔。
「……え?」
息が止まる。
その顔を、希一は知っていた。
この世界の英雄。
アルマを殺す者。
キース・ヴァレンタイン。
平民出身の剣士。
そして――
アルマの最期を看取る男。
「……は?」
沈黙。
数秒後。
「ちょっと待てえええええええええ!!」
絶叫が部屋に響いた。
「なんで俺が!!」
「アルマ様殺す役なんだよ!!!!」
頭を抱えながら、キースは叫ぶ。
だが、すぐに動きが止まった。
窓の外の空を見上げる。
この世界。
この運命。
そして、あの少年。
アルマ・ル・ヴァルディス。
キースは小さく笑った。
「……まあいい」
拳を握る。
「だったら」
静かに呟く。
「この運命」
「ぶっ壊してやる」
空の向こうに広がる、万象の力。
アルカディア。
キースはその空に向かって誓う。
「アルカディアに誓って」
「俺が、この運命を殺す」
あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この物語は、
「推しが救われない世界なんて納得できない」
そんな一人のオタクの想いから生まれました。
運命が決まっている世界で、
それでも抗おうとする人間がいたらどうなるのか。
そして、
本当に運命は壊せるのか。
その答えを探す旅が、これから始まります。
アルカディアに誓って。
この物語の結末を、どうか最後まで見届けてください。




