第7話 青い髪の少年兵
後ろ髪を引かれるように、ふと気になって男は外へと視線を向けた。
遠くの演習場で、背格好のバラバラな者たちが走っている。
「陛下、どうしました?」
「騒がしいな?」
「ああ、下準備のために集めた志願兵ですよ。今日は二日目じゃないですかね」
ああと、その目を細めた。やることが多くて、結果だけ確認していたのだ。必要はのはその過程ではないのだから。
ふと、その集団の中に青色を見つけ目を奪われる。ドクッとわずかにその胸がざわついた。
「志願兵に、女を入れたか?」
「え、平民ですよ。使えないのに入れてませんて」
部下が何を馬鹿なと返答した。確かにあり得ない問いだとは我ながら思った。
「国内外問わず、青髪の少女を見つけたら報告を怠るな。場合によっては、即刻保護して構わない」
見えたはずの青は、気のせいだったのか埋もれてしまったのか、もう見えなかった。
だから、気のせいだと片付けてその場を後にした。
――あんなところに、彼女がいるわけがない。
◇◆◇◆◇◆◇
基礎訓練をひたすら繰り返す。
そんな生活を二か月と少しした頃、脱落者の数も落ち着いた。
リンは魔法を秘匿したまま、総合的な成績優秀者として、入隊時の雑魚寝部屋ではなく、二人部屋へと兵舎の部屋が移動になった。
「お前が同室? 今日からよろしくな、俺はジニア」
「リンだよ。よろしく、ジニア」
ジニアと名乗った少年は、リンよりも背が高く年上だろう。
すらりとした体躯だが、差し出された手はゴツゴツとしていて、がっしりとしている。服の下も引き締まってそうだ。
リンが握り返した握手から、力強さが伝わってきた。
――同期なのに、これが男女の差かぁ。
一方のリンは、幾分筋肉はついたが線は細いままだった。
手に出来た剣だこの豆は、出来たり治ったりを繰り返していて、未だに両手を包帯で巻いていた。
男に混じって剣を合わせると、どうしても力関係で負けてしまうからだ。
「リンは細いな。ちゃんと食えてるのか?」
「皆、同じ物食べてるだろ、体質だよ」
さっそくジニアにまで、指摘されてしまった。
始めの頃は、あまりの量に吐きそうになった夕食を思い出す。
けれど、普通に食べれるようになった今も筋肉はつきにくい。
――母国には居なかったけど、他国には女性騎士も居たのに。情けないな。
戦争を始めるに辺り、一から兵を鍛えるなら、それなりの準備期間がある。残された猶予は、短くもないが長くもないと思う。
「あれ、リン。せっかくの水浴び行かねぇの?」
「人が多いだけの集まりだろ。遠慮するよ」
「そっか、じゃあ俺、行くから」
ジニアはタオルと着替えを持って、部屋を出ていった。
残されたリンは、木桶に魔法で湯を出すと、服を脱ぎ、身体の汚れを落としていく。
手の潰れた豆に湯が当たり、顔をしかめた。
「二人部屋はラッキーだね」
集団生活の間、ずっとトイレに籠って身を清めていた。
タオルを顔に押し当て、リンはホッと息をつく。
そのうち胸の膨らみも出てくるだろう、サラシを巻くにしてもいつか女だとバレたら、リンは厳しい処罰に晒される。
男女差での実力で限界がきてしまう前に、リンは確固たる立場を築かなければと、再確認した。
――それは別にいい。
けれど困るのは、それでは目的が果たせないからだった。
新しい布を手にとって、くるくると身体に巻きつけていく。手にも包帯を巻いた。
汚れた服をまとめて木桶に入れ、魔法で汚れと分離させる。
汚れだけをそのまま手でまとめて回収し、最後は火を出して燃やした。
魔法の扱いにも、リンはずいぶんと慣れたのだった。




