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処刑回避のため家出した令嬢は、男装騎士として運命をやり直す  作者: 松平 ちこ


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第3話 今、出来ることを一つ一つ積み重ねて

「……よいしょ」


 窓の外は、晴れやかに青空が広がっていた。

 カメリアはここ数日、屋敷の書庫に籠っていた。


「お嬢様、本当にこれをお読みになるので?」


「ええ。お勉強は大切でしょう?」


 背表紙のタイトルを読み中身を確かめるために、彼女は本を手に取る。

 十歳の身体には本は重く、一冊、一冊運ぶのでも重労働だった。側つきのアイリスにも手伝ってもらう。


 ――家から出たとして、先ずは教会かしら?


 書庫の机に地図を広げ、本を広げる。カメリアは必要な知識を復習して、再度頭に叩き込んでいく。


「お嬢様が、地図まで……」


 仕える主のその姿勢に驚くばかりのアイリス。彼女はカメリアが読み終わった本を片付けたりしている。


 それを視界に映しながら、カメリアは本に意識を傾けた。

 家を出れば、本はまず二度と読めないと思っていい。今のうちに、しっかりと見ておかなければ。


 修道院を頼れば、すぐに連れ戻されてしまうだろう。それは国内の教会でも同じだろう。

 特にミレット王国は、孤児院は王立の一つだけ。教会に身を寄せても、子どもは中央の王立孤児院に集められてしまう。


 カメリアは、自分の容姿が目立つことも分かっている。

 すぐに身元が割れてしまうのが明白だった。


 そして、もう一つの理由。

 処刑された日に、魔女と罵られた所以でもある。魔法使いとしての力。


 伯爵令嬢のカメリアが他家を押し退け、王太子の婚約者に抜擢された、一番の理由とも言えた。


 ――おかしいよね。国が欲したのに、最後は捨てられるなんて。


 今なら、それに気づく者はいない。でも、このまま国内にいれば、魔法使いの噂が広まって、城へとカメリアは召されることになるだろう。


 ――可能なら他国。それに十歳なら、しばらくの間は、男として生きましょう。


 性別を偽るだけで、捜索の難易度は跳ね上がることだろう。

 家族には申し訳ないがなりふり構っていては、婚約の打診が来てしまう。


 そうなってはどのみち、家族に迷惑をかけてしまう。

 子どもの間なら、性別を偽るのは容易だろう。


「そうなると、お金がいるわね」


 他国に渡るとなれば、子どもの足では日数がそれなりにかかる分、路銀がいる。


 劣悪な地下牢生活で、カメリア自身は泥水も雑草も抵抗はないが、十歳の子どもの身体で腹を壊しては、旅に支障が出てしまう。


 ――もう辛いのは、嫌よ。


 先ずは教会でお世話になる。その後のことは、またその時に考えよう。

 カメリアは、そう心に決めた。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「お父様」


「どうした。カメリア」


「……あの、この前お勉強で学んで、お父様にお願いがあって」


 アイリスに頼み、父とのアポを取ってもらった。約束の時間に、カメリアは執務室を訪れた。


 カメリアは扉を開けて、手をもじもじと交差させる。父にお願い事をしに来たのだが、普段そういったことをしないので緊張する。


「……硬貨について、実際のものを見て覚えたいの。幾つか貰うことって出来る?」


「勉強熱心だね、いいよ。執事に言付けておこう。そうだ、今度市井にも買い物をしに行こうか。

 実際に見て触れるのは、良い学びになるからね」


「ありがとう。お父様!」


 すんなりと手に入った硬貨に、カメリアは父に抱きつき、感謝の意を伝えた。


 同時に前世でのことを思い出し、カメリアは目頭が熱くなる。

 顔を父へとぐりぐりと押しつけて、気持ちに蓋をした。


 ――お父様、本当にありがとう。ごめんなさい。


 カメリアは着々と、家出のための準備を進めていった。

 気を良くして、カメリアが次に向かったのは洗濯室だった。


「まぁまぁ、カメリアお嬢様。こんなところに来てはいけませんよ」


 ひょこりとカメリアが覗いたそこ忙しそうに動き回る女性たちがいた。皆、カメリアの姿に驚いている。


「お裁縫の練習がしたいの」


「あらあら、それでしたらこんなところに来ずとも、綺麗な布をご用意いたしますのに」


 女性の一人がそういって、カメリアの後ろにいるアイリスを見た。

 アイリスは黙って首を横に振っている。

 そう、カメリアはさっきアイリスに同じことを言われていた。


「新しい布は、針が通りにくいのよ。だからここで、何か良いものはないかしら?」


「そうは言われましてもねぇ……」


 ――古布の入手は難しそうね。


 普段着ている服は、貴族令嬢として目立ってしまう。逃走用の服を見繕えないかと思ったのだが、難しそうだ。


「ごめんなさい。無理を言ったわ。お仕事頑張って、いつもありがとう!」


 カメリアは怪しまれる前に、ささっと部屋を後にした。


「お嬢様、最近変じゃないかしら?」


「なんだか、別人のようにしっかりなさって」


 

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