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処刑回避のため家出した令嬢は、男装騎士として運命をやり直す  作者: 松平 ちこ


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第28話 陛下がよく分かりません

 ――陛下。無償の愛ってなに!?


 ライラック・ロータス・アスフォデル。そう名乗りを上げた彼は、リンの知る陛下とは、似ても似つかないほどの蕩けた眼差しと微笑みをリンに向けてきた。


 さらにロスと名乗った陛下は、カメリアの記憶にある、あのロスだという。

 彼は一国の王子だったのか?

 そんな大物、なぜリンは忘れていたのだ?

 頭の中は何がなんだが分からなくて、リンはもうパニックだ。


「なにするんだぁ! 貴様ぁ!」


 床に倒れていた男が、起き上がって吠えた。

 その声に現実へと引き戻されたリンは、反射的に身を強張らせ、警戒する。


「へっ?」


 けれど、さらに力強く抱え込まれ、リンは陛下の胸にぎゅっと密着した。つい場にそぐわない、間抜けな声が出た。


 触れた体温が温かく、とくとくと陛下の心音がリンに伝わってくる。

 それはまるで、安心しろとでも言うようだった。


 三年同室だったジニアにさえ、横抱きされたら落ち着かなかった。


 それなのに、陛下に抱かれたリンは嫌悪を抱くこともなく、されるがままになっていた。

 なんだかいい匂いまでしてきて、リンの頭がくらくらとしてくる。


「……黙れ」


 地を這うような低い声が、リンの頭上から響く。

 見上げれば、先ほどまでの甘い眼差しから一転、男に対し冷酷な視線を向けた陛下がそこにいた。

 リンがいつも遠目で見ていた、アスフォデル国の国王の顔だった。


 ――ホントに、陛下だった。


 パチンと音が鳴ったかとリンが思えば、男の右手が雷撃によって瞬時に消し飛んでいた。


「ああああああ!」


「……彼女の耳が、汚れるだろう?」


 さらに陛下は、蔑むように男を見下ろし、靴の先で地を軽く鳴らした。陛下の足元から伸びた氷柱が、わめく男を氷漬けにする。


 ――強い。


 瞬く間に無力化された男、圧倒的な魔法行使にリンはゴクリと、唾を飲み込んだ。


「……アスフォデル陛、下」


 ――どうしてここに。なぜ、リアと呼ぶの?


 聞きたいことはあるのに、リンはうまく言葉に出来なかった。

 そんなリンに陛下の顔が近づいてきて――優しく額に、口づけをされた。


「――っ!?」


 突然のことに訳が分からず、リンの顔が熱くなる。口をパクパクと開閉させるけれど、自分でも何を言いたいのか、分かっていなかった。


「リア、君の憂いを払おう。だから安心して?」


 そんなリンの戸惑いもお構いなしに、陛下は甘く、ふわりと笑って宣言した。

 問いかけの口調なのに、陛下はリンの返答を待っていない。

 そのまま、コツコツと階段の方へと、リンを抱いたまま陛下は足を進めている。


 リンを抱く陛下の手は緩まる様子もなく、おろしてはくれそうにない。

 リンは黙って息をつくと、成り行きに身を任せることにした。


 ――良かった、皆。


 階段の下、身を寄せ合い恐怖でいっぱいの子どもたちがいた。


「私は、君たちに危害は加えない。助けに来た。直に兵もやってくるから、安心するといい」


 陛下はそのまま子どもたちの横を通りすぎ、階下へと降りていく。


 力強く温かな腕に包まれて、トントンと歩く振動も重なって、不意にリンの緊張の糸がプツリと切れた。

 今になってようやく、全身を襲う痛みにリンは気づく。


「――っ」


「ごめん。少しだけ耐えてほしい。私はもう、一時もリアを手離したくないんだ。

 辛いなら、安心して眠っていい。この先は、君にあまり見せたいものではないから」


 リンよりも痛そうな顔をして、陛下が視線を合わせずにそう告げた。

 その陛下の手が、僅かに震えていることに、リンは気づいてしまった。


 ――どうして陛下が、この先にあるものを知っているの?


 まるで一度訪れたことがあるような陛下の口ぶりに、リンは言い知れない不安が芽生え、渦巻いた。


 ――見ないで。


 この先にあるものは、かつてのカメリアの過去に繋がるもの。

 この先にあるものは、リンがなりふり構わず屠った男たち。


 ――お願い、見ないで。


 そう口を開きかけ、けれどもそれは音にはならなかった。

 全身を駆け巡った激痛に息がつまり、目の前が真っ暗になる。

 リンの意識はそのまま、闇に呑まれてしまった。

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