第25話 自由を求めて立ち上がろう
一人、一人。また一人。
今日も、子どもが戻らない。どこか遠くから、子どもの叫び声が聞こえる。
そしていつからか、聞こえなくなる。
『お姉ちゃん、帰りたい』
子どもが減って、また新しい子どもが来る。
『お姉ちゃん、怖いよぉ』
子どもが消えて、また新しい子どもが現れる。
『お姉ちゃん』
この部屋の中で、私だけが一番のお姉さん。
私だけがずっと、頼れる大人のはずだった。
『――』
首に嵌められた枷は、私から声を奪った。
手と足に嵌められた枷は、私から自由を奪った。
いつからか水も食べ物も与えられず、涙はとうに枯れ果てた。
私はただ、子どもたちの心を折るために、その部屋に留め置かれた。
夜、身を寄せあって眠る子どもたち。
夜な夜な卑下た笑いをする男たちの手で隣室に連れていかれ、慰み物にされる私。
朝になれば、また部屋に返される。
子どもが増えて、泣いて、減っていく。
繰り返し。繰り返し。
――なぜ、私はここにいるのだろう。
――なぜ、私は生きているのだろう。
『ようやく、君の処刑が決まったよ。全く、何を嗅ぎつけたのかアスフォデルが欲しがるとはな。
ああ、なんて長かったんだ。喜びたまえ、私が直々に知らせに来てあげたぞ。
見ない間になんとも、みすぼらしい姿になったものだな。は、不気味な魔女らしいじゃないか。今見れば、奴も要らないと言うんじゃないか?』
ひどく愉快な音色を奏でて、私の耳を通りすぎる声。
『なに、安心しろ。そんななりでも、髪も、目も、血も、肉も、全て余すことなく有効に、使ってあげよう。
飲まず食わずでも死なないその魔女の血肉。好事家たちが、喜んで求めるだろう。
良かったな。君は死んでからも、需要がある』
――ああ、やっと終われるのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「――っ!」
ハッと目を開ければ、薄汚れたワンピースと鎖が見えた。壁に背を預け、リンが座って寝ていたためだ。
こみ上げてくる吐気に、リンは堪らず胃液を吐いた。頭の中で、鐘が鳴り響くようにガンガンと痛む。
――すごく、嫌な何かを見た気がする。
じっとりと汗をかいたせいで、首にある枷が余計に気持ち悪い。苛立ちに枷を掴めば、力んだ爪が、リンの首の皮膚を裂いた。
部屋にいる子どもたちに、これからどうするかを投げかけて、リンは仮眠をとっていた。
窓の無いこの空間は、時間感覚がおかしくなってしまう。精神衛生上、とてもよろしくない。
「私はそろそろ行くよ。ついてくるならついてきたら良いし、残るなら残ったらいいから」
引きずらない程度に鎖を持って、リンは立ち上がった。
怯える子、泣いている子、一人一人の顔を見渡して、リンは笑顔を向けた。
「お姉ちゃんは、ここに戻ってくるの?」
「戻ってくるかもしれないし、戻ってこないかもしれない。でも、助けはいつか、来ると思う」
一番大きい子どもが、リンに聞いてきた。
他の子達のために聞いたのだろう、出会ってから、彼女の弱い姿を見ていなかった。
だからリンも、正直に答えた。
――昔の私とは大違い。鍛えたら、強そう。
どれくらい時間が経ったか分からない。
けれど、リンが残した報告書がアスフォデルに渡って正しく活用されれば、ここは見つかるのは時間の問題だと思われた。
一番大きい彼女の手枷を地面に置き、動かないようにと、鎖を手に巻きつけながらリンは言った。
粗雑な木の板の枷に狙いを定めて、拳を振り下ろす。ミシッと鈍い音を立て、留め具の部分の板にヒビが入る。あとは手で、左右に板を割った。
「一つ言えるとしたら、お姉ちゃんは絶対に最後まで諦めないってことかな」
少し皮膚が裂け血が滲む拳を見て、リンは苦笑いする。
首に掛けたままにしていた、口にまかれていた布を外し手に巻くと、その上に鎖を再び巻いた。
希望する子どもの手枷を、一人一人リンは壊して回った。




