第24話 かつての少女は、少年となり反撃する
陛下とジニアは、アスフォデルの国境で馬を乗り換え、休みなく駆けた。
ミレット側の国境が近づき、ジニアがどうするのかと思えば、先頭をいく陛下は減速することなく突っ込んでいく。
前方を塞ぐ砦に、陛下が指を鳴らすと、青白い閃光が視界を走っていった。直後、そこに轟音と爆発が起こる。
たった数発で、落雷に打たれたかのような有り様で、砦を崩壊させていた。
辺りは状況が飲み込めないミレット兵たちの怒号が、飛び交っている。
その中を、二人は走り抜けた。陛下にいたっては、周囲をかえりみることもしていない。
馬も、よく訓練されているのだろう。立ち止まることも、取り乱すこともなく速度を保ったまま走っている。
――アスフォデル現王は、ミレットに久しく来ていないはずだが。
勝手知ったる庭のように、前を走る陛下は馬を操り、迷いなく進んでいる。
ただまっすぐに進んでいるわけではなく、きちんと手綱を操っていた。
明確な目的地がなければ、出来ないことだろう。
ジニアは追いつくので精一杯で、陛下に疑問を投げかけることも出来ない。
姿勢が崩れることの無い綺麗な騎乗に、なぜだが高い壁をジニアは感じていた。
「かっけぇな」
ジニアの口から出たのは、乾いた笑いだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「……」
ドアの向こう。ガチャガチャと音がして、リンはようやくかと、閉じていた目を開けた。
魔法を封じていると思われる首の違和感を、どうにか取れないかと、リンが子どもたちに訴えたのだ。
すると子どもたちから猛反対をされために、やることがなかったのだ。曰く。
『首輪取ったら、爆発しちゃう』
『お姉ちゃんも死んじゃうよぉ』
だそうだ。それはなんとも、物騒な物をつけてくれたものだと思う。
「おら! ガキども、散った散った!」
リンの周りにいた子どもを蹴飛ばして、男が二人、入ってきた。
壁につけられた金具を外し、上に吊るされていたリンの鎖が、じゃらと地に落ちた。
「おい、お前はこっちだ。さっさと歩け!」
リンは黙って、鎖の重さと長さを確認する。手首から近い部分の鎖を、それぞれの手に持った。
――魔法を封じたら、ただの小娘とでも思ってるわけ?
簡単に、リンに背を向けた二人の男。手には壁の枷を外す鍵だけで、隙だらけだった。
見下しかたといい、人を人と思わない所業といい、リンは冷えた目で見つめた。
「――がっ!」
リンから見て高さの低い方、その男の首へと鎖を掛け、リンは左右に思いっきり引っ張った。
「っ、お前!」
左隣の男がリンに気づくよりも早く――絞めた鎖を支柱に飛び上がったリンが、男の頸椎目掛け、回し蹴りをする。
顔から地面へと叩きつけられた男は、起き上がる気配がない。
リンはそのまま身体を捻り着地と同時に身を屈め、首を絞めた男を地面へと引き倒し、更に絞め上げた。
男の意識を奪ったのを確認して、リンは鎖を緩めた。
「もう、前と違うのよ」
口の布を外し、リンは苛立ちに任せ吐き捨てる。
首輪の遠隔操作や有効範囲が分からなかったが、少なくとも反撃行動は判定外らしい。
男たちの手に鍵以外見当たらないため、首輪は外せない。
けれど、何かしらの機器を持っていなければ、リンは自由に立ち回れることが分かった。
室内を見渡して、子どもの数を確認する。
幼子から、一番大きくて最初に話しかけてきた子が、リンの少し下くらいだろう。年齢は様々だった。
――ミレットは、ここに国の孤児を集めてたんだっけ。
ズキリと鋭く刺す痛みに、リンは顔をしかめた。
アスフォデルが、各地の教会に孤児院を併設していたのと違い。
前世、カメリアが閉じ込められた時に、孤児の子どもたちをたくさん見たのだ。
その中には、カメリアを見て、助けを求める子どももいた。
――思い出そうとすると、頭が痛い……。
手枷も、首輪もリンにとって邪魔でしかない。制限のある中で、子どもたちにとっての理想の正義の味方にはなれなかった。
前世の記憶が確かなら、子どもはここだけではないのだ。
リンが捕まる原因となった、直前のフードの子どもも含め、まだ分からないことも多い。
「ついてきても助かるか分からないけど、どうする?」
困ったように笑ってリンは、子どもたちに選ばせることにした。




