第21話 理想と現実
「お母さん~。早く早く! 始まっちゃうよ」
「そんなに急がなくても、大丈夫よ」
城下の広場、そこに向かってかけていく親子がいた。
他にも子どもたちが向かっていくのを見て、リンも興味本位で広場へと足を向けた。
「――!?」
広場の中央で、軽快な演奏とともに人だかりが出来ていた。
そこから歓声とともに突如として舞い上がった、鳥を模した火。
「もっかい! もっかい!」
「私、花火がいい」
子どもたちが口々に要望する。カラフルな衣装に身を包んだ男が、火魔法を次々と披露していた。
「あれ、怖くないの……?」
「んん? ボウズ、大道芸を見るの初めてかあ?」
離れたところから呆然と見ていたリンの呟きに、老人が親切に声をかけてくれた。
「大道芸?」
「加護使いがやるパフォーマンスだよ。彼らは、加護を使うにあたっての国の資格を持っとるからな。
何も怖いことなど、ないんじゃい、安心せぇ」
「加護使い……?」
「どえらい田舎から来たんかぁ? 加護使いは皆、その神様からの不思議な力、加護を正しく扱えるよう学校を出とるんだよ。
だから皆、ほれ楽しんどるだろう?」
わぁと、一際大きな歓声が上がる。リンが老人から大道芸の方へと、視線を戻した。
そこには、ポニーテールのカラフルな衣装に身を包んだ女性が、空をすいすいと泳いでいた。
また彼女の進行方向の先に、男性が火魔法でさまざまな火の輪を作り、女性がそこを潜っていた。
ミレットの鉱山の町で、泣きじゃくるウィローと石を投げつけた町民が、リンの脳裏をよぎった。
――ここまで違うのか。
死に戻り前、カメリアとして外交に来てくれたグラジオラスの団体を歓待したことがある。
カメリアはグラジオラスには行ったことが無かったが、グラジオラス側が容易に来ることが出来た理由が見ていて分かった。
生活に溶け込んでいる加護使いたち。
ミレットとは、その全てがあまりにも違いすぎた。
「若いヤツにはもっと有益につかやぁ、言いよるヤツもいる。
けどワシは、彼らが伸び伸びしとるのが、一番平和な証拠さぁ思うなぁ」
老人曰く、資格を登録してる彼らは、有事の際に駆り出されることもあるそうだ。
具体的にとリンが聞けば、グラジオラスでの間近の有事、豪雨による土砂災害の災害復旧と返事が返ってきた――。
――それはなんて、平和な使い方だろう。
◇◆◇◆◇◆◇
月明かりの無い夜空、そこから音もなくリンは森に降り立った。
直轄領を上空から見た時に、真ん中にぽかりと、切り開かれた土地のある森を見つけたのだ。
人目に触れないように出来たそこに、小さな建物があった。
夜も遅いというのに、中から光が漏れていた。
――いかにも過ぎて……。
建物の周囲は切り開かれて、身を隠せるものが何もない。
怪しさは満点だが、このまま見ているだけでも進展はない。
リンは、飛び込むしかないだろうと気持ちを切り替えることにした。
「侵入者」
「怪しい人」
パキパキと木々の踏む音がして、白いフードの影が三つ現れた。リンと体格が似ていた。
――子ども?
「捕まえて」
三人ともが、その声も高かった。一人が手を前にかざすと、リンの目の前を稲光が走った。
「――つ」
それを、後ろへとリンは飛んで避けた。
暗闇の中発生した光で、リンの目がやられた。
夜目が利かなくなって、辺りが全て真っ暗に見える。
――くっそ、潰された。
仕方なくリンは目を閉じて、微かな物音を頼りに、一つの影へと突っ込んだ。
影はリンを狙って水球を飛ばす。それは、リンの頬を掠め、大きな水音を立てて地面を濡らした。
伸ばした手で、リンはフードを掴むと、躊躇いなく地面へと投げた。
しんと静まり返った辺りに、位置関係が掴めないリンは、自分を起点として突風を発動させる。
ビュウビュウと風が木々を揺らし、そこから二つ、不自然な風の流れを掴む。
まだぼんやりとする目を凝らして、リンは二つの影を風で巻き上げ、木々に叩きつけた。
「……魔法使いが、三人も」
子どもたちが戦闘に慣れた様子はなかった。けれど、リンの探し物がここで合っていたのは良かった。
「――ぐっ」
子どもたちを一先ず何かで縛ろうか、そう考えたリンの全身に、衝撃と同時に激痛が走る。
目の前で閃光が弾け、バシャリと水音をあげてリンは倒れた。リンの身体が、痺れて動けない。
倒れた水に、パリパリと電撃が走っていた。揺れる視界に、燐光を放つ白いフードが見えた。
――まだ、居たの。
「目標、回収。褒美、期待」
無機質な声を聞いて、リンの意識は落ちた――。




