第20話 魔法使いと魔女の謎
一人になったリンは、ミレット王国、かつての生家ジェンティアン領にある森に来ていた。
時間帯が夜なこともあり、見知った森は安全だろうとの判断だった。
リンは地面に、木の枝でガリガリと地図を書いていく。
「川、池、山、村、町、街道、駐屯地、武器庫、製造所、食料庫、貴族家、国境、見張り台、商人、商会……」
ブツブツとリンは呟きながら、詳細に地面に印をつけていく。頭の中には既に一度書いたものが広がっていた。
生前の知識と潜伏中の情報、それらをまとめた調査報告書を洞窟に残してきていたのだ。
――ミレットの迫害は、間違ってる。
何かあれば使うようにと従騎士の身分証とともに報告書一式を、ウィローに預けてあった。
賢い彼なら、ジニアとうまくやるだろう。
「流通、王宮、予算、支出、仕入れ、配置……」
グラジオラス帝国は、ミレットやアスフォデルに比べ、かなり大きな大国だった。かつて小国だったものが、集まって出来た生い立ちからだろう。
――大国だから、分母が大きいもんね。
そのグラジオラスでは、人種差別、迫害は禁忌。むしろ加護使いは人数的に多いことから、差別よりも一種の出世コースとして称賛の的だった。
アスフォデルは、人口比率の希少性から異端視されやすい、魔法使いを率先して保護をしている。
こちらは保護の後、グラジオラスに留学したり、アスフォデルの魔法部隊で学んだり、ある程度本人の自由があることもグラジオラス側の側面で分かった。
アスフォデル内で人数が少ないため、知名度が低く世間一般ではないせいだった。
リンがアスフォデルにいても分からなかった理由だ。
ミレットの基準だけがおかしい。それは既にリンの報告書とウィローの存在で明白なほどだ。
アスフォデルが戦争を仕掛けるほどではないにしても、国として糾弾が出来るだけの証拠が揃っている。
それでもリンが再びミレットに来たのは、前世のカメリアの扱いの謎を知りたかったからだ。
――人と違うからと、差別するのはあり得る話。でもじゃあ、私は?
伯爵令嬢と身分も低い中、その資質で婚約者に抜擢したにも関わらず隠蔽し、婚約破棄をして一族郎党、処刑したのだ。
「王子が惚れた女と結婚したかった、が一番だろうけど。私、忙しくてその子と接点無いのに、処刑されたわけで……」
――生かす理由がなくなったのか、殺さないといけない理由が出来たのだろうか。
「魔法使いを国に差し出せば、褒賞金」
ウィローを見た町の者が、言っていた。
ミレットは魔法使いを集めて、何かしているのかもしれない。
リンは、王都の近くの小さな王家直轄領に印をつけた。
「孤児院以外なにもないのに、すごく人も予算も物も使ってるよね」
王家直轄領は他にもある。ここにあるのは、国唯一の孤児院。
令嬢だった昔は、そんなものかと気にしてなかった。
けれど実際に教会の孤児院で過ごした、今のリンには違和感だった。
それは、何もないのではなく、何かあるのを隠しているのがバレバレなほどだった。
知りたいものが見つかればいい、リンは目的地を定めた。
◇◆◇◆◇◆◇
アスフォデルの街でジニアに見つかる前、リンはグラジオラスを訪れた。
アスフォデルとミレットとグラジオラス、これら三国の交わる国境には、険しい山岳地帯が広がっていた。
特にグラジオラス側には、万年氷に覆われた山があることもあって、国交は盛んな方ではなかった。
広い視野を知りたかったリンにとって、親密ではない離れた大国の見聞は、それだけで好奇心が掻き立てられた。
寒かったのは難点だったが、山越えをしてリンが見た景色は、とても良かった。
視界にいっぱいに広がった見渡す限りの緑の地平線は、国土の半分が海に面しているアスフォデルには無いものだった。
「号外~。号外だよ~!」
街を歩いていると、上空から声がした。
上を見上げるとその光景に、リンはさらにぎょっと驚いた。
赤い上下の服を見にまとった人が、空を飛んで何かをばらまいていたからだ。
その一枚を手に取れば、【祝、舞踏会にて見初めた!? 王太子が公爵令嬢に熱愛プロポーズ】という見出しが書かれていた。
周りからも、記事を見て祝福する好意的な意見が飛び交った。
誰も、飛んでいる人を気にかけてはいなかった。
――これが、グラジオラスの日常なんだ。




