第17話 隠居生活、同期との再会
「リン、どうかな?」
「ウィロー。上手!」
あれから一週間。山頂での二人生活も慣れた。
保護した子どもは男の子で、名はウィロー。始めは泣いてばかりだったが、今ではリンに、とてもよく懐いてくれた。
リンに笑いかけるウィローは、両の手のひらに火の玉を出していた。
出会った頃、感情の起伏に左右されていた火魔法は、今は任意の出力で出せるまでになった。
今も曲芸のように、ウィローは火の玉を回している。
あんなことがあっても、忌避せずに制御を覚えることが出来たのもウィローの強さだろう。
――もしかしてうちの子、才能あるかも。
なんて。そんなことを考えてしまう自分が、少し怖い。
けれど家族への恨み言も、ウィローは全く言わなかった。
同情は出来ないが、門兵は立場上、ああ言うしかなかったのかもしれないと、リンも触れないでいた。
「最初に言ったように、魔法使いは自然現象に影響を与えることが出来る人たちのことなの。
ウィローは飲みこみが早いから、いつか火魔法以外も、使えるようになるかもね」
「リンの教え方が、うまいからだよ!」
素直でいい子だと、リンはウィローの頭を撫でた。ウィローも嬉しそうにしている。
家では一人っ子で、仕事に行く両親の傍ら寂しさもあったというから、そのせいだろう。
「これだけコントロール出来たら、人のいるところで生活も出来ると思う。
ウィロー、そろそろ考えておいてね」
「……リンと一緒にいちゃ、やっぱりダメなの?」
「僕もまだ仕事があるから。孤児院とかだと、身寄りのない子もたくさんいて賑やかだよ。
僕が住んでた孤児院なら、休みの日に会いに行けるからね」
リンを見るウィローの声は、震えていた。手も白くなり血の気が失せている。
まだ人前に出るのは、怖いのかもしれない。
それでもリンは、身分も名前も性別も、全て偽っている。
一週間の生活の中で、リンが女であることはバレてしまった。けれど――。
『女ってだけで、生活が大変だって言うもんね』
ウィローはそういって、リンのことを深く追求しなかったのだ。
父親の仕事をよく見ていたのだろう。賢い子どもである。
そんなウィローを、リンの事情に巻き込むわけにはいかなかった。
「食料の調達をしてくるよ。ウィローは育ち盛りだからね、留守番よろしく」
◇◆◇◆◇◆◇
「リン」
聞き慣れた声に、リンは思わず振り向いてしまった。
――ジニア、なんでここに!
ミレットとの国境から程近い、アスフォデル国のちょっと大きい街。見つからないと選んだ街だったのに。
リンは質素なシャツにズボン、帽子をかぶって、人混みに紛れていた。
ジニアは隊服を来ており、職務中なのだろう。
「おい、無視すんなって。リン、なんでここに居るんだ」
「いった、離せよ。ジニア」
「……お前、何やらかしたんだよ」
ジニアが肩を掴むとリンは抵抗をみせた。
その肩に血が滲んだのを見て、ジニアは舌打ちをした。
辺りを見渡すと人気の無い服屋へと、ジニアはリンを連れて入った。
「いらっしゃ――ってジニアじゃない。なあに、アンタ連れがいるの?」
「こう見えて女だから、いい感じで服を見繕ってくれないか」
ちょっと待ってて、と手慣れた感じで店員は奥へと向かった。
「おい、なんなんだよ」
店員に注文するジニアに、リンが抗議の声をあげる。
ジニアは声を潜めて、リンへと告げた。
「俺も回ってきた人相書見たけど。アレ、お前だろ。男の格好が、今は逆に目立つんだよ。
見つかりたくなきゃ、大人しく着替えろ」
――やらかしたのは、どっちかというとミレット王国。なんでアスフォデル国で、人相書が?
ギクリと身を固くしたリンに、ジニアはやっぱりと、頭をかいてため息をついた。
「任務中なんだろ、深くは聞かねぇよ。ただ怪我をしてるなら、手当ては受けてくれ」
「病院には行けない」
「女のリンなら、俺の連れで通す。ここの軍医とは懇意だ」
ジニアの有無を言わせない態度に、リンは折れるように、息を吐き出した。
店員に呼ばれ、リンは着替えのために店の奥へと向かう。
リンが、チラリと後ろへ視線を向ける。
壁に背を預けたジニアが、眉間に皺を寄せて不機嫌に目を閉じていた。
こっそり通報しに行く、なんてこともなさそうだ。
長年の同期として、純粋に心配をしているのだろう。




