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処刑回避のため家出した令嬢は、男装騎士として運命をやり直す  作者: 松平 ちこ


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第15話 ミレット王国からの逃避行

「これが魔女かよ、気味が悪いな」


「不吉だわ。兵士はまだなの!?」


「久々の魔女狩りだ!」


「早く殺しちまおう。国から褒賞金が出るぞ!」


 近づくにつれて、町中の異様な熱気に、リンは吐き気を覚える。

 その空気は、処刑されたあの日とそっくりだった。


 ――ひどい。


 広場には大人が集まっていて、それぞれに野次を飛ばしている。


「なんで、殺さないんだ」


「暑くて近寄れるか。不気味な炎だよ!」


「おい! 誰か飛び道具持ってこいや!」


 それと同時に、見えてきたのは火柱だ。自然の炎ではない。魔法使いによるものだろう。


「ごめん。通して」


 人混みをかき分けて、リンが最前列へと躍り出た。


 子どもを守るように火柱が上がっているのが見えた。

 人々は子どもを囲うだけで、火のせいで近寄れないらしい。


 ――魔法の発現と、パニックが重なった?


 リンが前世で魔法を発現したのは、十四歳。

 無意識に小さな物を浮かせたことが、始まりだった。

 目の前の子どもも、当時のリンと同じ年くらいに見える。


「――っ!」


 誰かが、石を子どもに投げ始めた。


「危ないだろ! 大の大人がよってたかって、何してる!」


 リンは躊躇わずに、火柱の前へ足を進めた。靴に仕込んでいたナイフで、石を叩き落とす。


「誰だ、お前! 余所者か!」


「ソイツは魔女だ。殺さないと俺たちの家まで燃えちまう!」


「違う! 魔法使いは、能力をコントロール出来る。

 暴走してるのは、お前たちが恐怖をあおるからだろ!」


 話しても埒が明かないと、大人たちに背を向け、火柱の中の泣いている子どもへと、リンは手を伸ばす。


「……兄、ちゃん。危ない、よぉ」


「大丈夫。お兄ちゃん、燃えないよ」


 顔を覆って泣いていた子どもに、リンはにこりと笑顔を返して、その手に触れた。


 火柱は、リンの風で打ち消した。子どもから発せられる火魔法は、互いの触れた手から正常に戻るようにリンは念じる。


『お姉ちゃん、怖いよぉ』


「――え?」


 リンの脳裏に一瞬、目の前の子どもとは違う。別の子どもが重なった。

 リンは自分以外の魔法使いに会うのは、前世合わせて、初めてのはず。


 不思議な感覚に導かれるまま、目の前の子どもを魔法の暴走と位置づけ、リンは完璧に対処をしてみせたのだった。


「っ!」


「兄ちゃん!」


 意識がそれたことで注意を怠り、飛んできた矢がリンの肩に刺さる。子どもが、悲痛な声をあげた。

 リンが視線だけ後ろへ向ければ、顔馴染みの門兵が弓をつがえていた。


「炎を消してくれて助かるぜ、退きな坊主。警備の親父がいたなら、魔法使いは見つけたら即殺さなきゃいけないのが、分かるだろ?」


「分かんないね。発現したばかりのこの子は、驚いただけだ!

 誰も傷つけてもいないのに犯罪者扱いとは、門兵さんも、目が曇ってんじゃないの?」


 ぐっと押し黙った門兵は、弓をつがえたまま次を放つことを躊躇った。


「おい! 早く射ろよ!」


「ほんとだよ。早くしないと、また火が!」


 言いたい放題の大人たちを無視して、リンは子どもを抱き抱えた。

 その子どもが、門兵を見て、涙を流す。


「……父、ちゃん」


「うるせぇ! 俺の子どもに魔女なんかいねぇよ!」


 叫ぶ門兵によって放たれた矢を、リンは風で叩き落とした。

 じろりと、周囲の大人たちを睨む。

 宿屋の部屋はいつでも去れるように、物は置いていなかった。


『迫害されていれば、即刻、保護するように!』


 アスフォデルの上官の指示を、リンは思い出す。

 リンの殺気で怯んだ大人たちは、その場から一歩後ろへと下がった。


「……この子は、もらっていくからな!」


 周囲を近づけさせないために、大きな風を起こす。

 前方の男たちの何人かが転倒し、口々にわめき散らしてきた。


「おい! こいつも魔女の手先だ! 殺せ!」


「なんてこった! 紛れてやがったのか!」


「騙してたのか、ひでぇぞ、ガキ!」


 その中で門兵だけが険しい顔で、弓をつがえたまま立っていた。

 その口がわずかに動いたのを、リンは見た。


「――君、目をつぶってしがみついていて」


 リンは子どもに声をかけ、地面を蹴った。瞬く間に風にあおられて、二人は空へと舞い上がる。


 夕暮れの空、町が見えないほどに飛び上がり、子どもが寒さのためにぶるりと身震いした。


「ごめんね。寒いよね、もう少しだけ我慢して」


 人目につかないように、リンはしばらく空を駆けた。


 ――どうして。


 リンは先ほどの門兵を思い出す。飛び立つ中、周囲の野次に混ざることなく、彼は静かに立っていた。

 子どもの口ぶりからして、父親なのだろう。


『頼む』


 彼の唇は、確かにそう動いていた――。

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