第14話 鉱山仕事でさえ、鍛練に変えて。そして平穏の終わり
「おい、聞いたか。ここらで鉄が、高値で売れるらしい。鉱山で掘りあてたら、うまい飯にありつけるぞ」
「マジか。鉄鍋とか売れるかも知れねぇな」
「売れるみたいだぜ。この間、いつぶしてるやつを見たって」
リンは女将に勧められた通り、先に食堂へと立ち寄った。夜の時間帯は、ちょっとした酒場のようだった。
二つほどテーブルを離れた先、男たちが酒を飲みながら話しているのが聞こえる。
「この間あった王太子様の式典、アスフォデル王国は参列しなかったらしい」
別のテーブルでもまた、ざわざわと男たちの話し声が聞こえる。
ピクリと、リンの指先がわずかに震えた。気取られないように、目を閉じて息をそっと吐いた。
「ええ、同盟国だろ。前王様とは仲が良かったのに、どうしてだよ」
「さあな。とうとう戦でも始まるのかね?」
「そんなの俺らにゃ関係ねぇよ。国境からは離れてるんだ」
「乱戦だったら、わかんねぇだろ」
「おい、お前ら物騒なことを言うなよ」
リンはテーブルで一人、ゴロゴロと大きな塊肉の入ったシチューを食べている。
それでいて風を操り、必要な噂話を耳へと集めていたのだった。
――王太子の立太子の時期だったのか。でも、前よりちょっと遅いような?
それに、立太子と同時に婚約者の発表もあったはずだ。
カメリアが失踪したとはいえ、別の婚約者がいてもいいだろうに。
話に聞く限り、婚約者の話題がのぼらない。
――ここも、前世とずれるんだ。
固いパンをちぎって、シチューにつけてリンは食べた。
少し肌寒くなってきたこの季節、身体が温まってありがたい。
――噂話はこんなところかな。さて、報告書はどうしようか。
これでも過去でリンは、ミレットの王子の元婚約者。地理には詳しい。
実際に歩いた感じ、この辺りは変わらないようだ。
アスフォデルが欲しているだろう情報は、すでに模範解答レベルで、リンには出せる気がする。
――でも、家族の安全を優先したい。
それが本来、アスフォデルへと志願した理由だった。
本当にミレット王国に攻めいる気でいるのなら、そこに貴族として住む家族の安全を、リンは確保したいところなのだった。
――どうしようかなぁ。
シチューの入った器を持って、ズルズルと、その中身を飲み干した。
貴族令嬢としてほど遠い今の姿、それがリンの全てだった。
アスフォデルへ報告書を提出するにも、安全なルートの確立が課題だと、リンはそう言い訳をした。
それから十日、リンは日中、鉱山で採掘をして日銭を稼ぎ、赤い屋根の宿屋を根城に情報収集の日々を過ごしていた。
「ふっ!」
支給品のピッケルをリンは両手に持ち、土壁に埋まる鉱石に向かって振り下ろした。
剣の素振りなどが出来る環境ではない。
鍛練ついでに、リンは真面目に採掘をしていた。
採れた鉱石は、重さで換金されることもあり、一石二鳥である。
「チビのクセに、相変わらず稼ぎやがるなぁ」
「チビは余計だよ、おっちゃん」
最初に門兵と打ち解けたのが、大きかったらしい。
採掘現場の人間とも冗談が言える仲となり、順調なリンだった。
けれどここ数日は新しい情報を聞かない、そろそろ移動の時期かと、リンは考えていた。
夕暮れ時、役人が時刻の合図のために鐘を鳴らして歩いていった。
リンは採掘した押し車を慣れた手つきで運び、換金のために外へと出る。
「……?」
微かな人のざわめきを、リンの耳が感じ取った。鉱山周辺ではなく、町の方からだ。
「おい! 大変だ! 魔女が出たぞ」
「なんだって!?」
「まだ生きてるのか、なにやってんだ!」
「呪われちまう、早く殺しちまえよ!」
町から走ってきた男が叫ぶ。それに便乗して、作業していた男たちが口々にざわめいた。
ピッケルを持ったまま、町の方へと走っていく男もいる。
――魔女が出た?
来たのではなく、出たという不穏な言葉に胸騒ぎを感じて、リンはぎゅっと胸元を握りしめて、全速力で駆け出した。




