第13話 偽りの自分に慣れ、人の優しさに甘える
ずるずる、ずるずる。
リンは蹴り飛ばしたナイフを回収し、男たちの服を裂き、簡易縄を作る。
それらを使い男の手を縛り、引きずって歩いていた。
気持ちはもう、過去の重しつきランニングの訓練を思い出していた。
――重いなぁ。捨ててしまいたい。
街道にそのまま放っておいても良かったのだが、またコイツらが別の子どもを狙っても、後味が悪いためだった。
――子どもがのしたって言って、怪しまれたらどうしようか。
目立つことで、アスフォデルのスパイだとバレても困る。
――いや、元々は僕。このミレット王国の貴族令嬢なのだけど。
父や母が見たら、それはそれで卒倒しそうだ。
結局、リンは何者でもないのだろう。
なんだが言葉遊びのようで、チグハグになってきそうだ。
「はぁー」
リンが大きなため息を吐いたところで、町の入り口へと辿り着いた。
日が暮れる前につけて、リンは安堵する。
「おい、そこの坊主。それは……なんだ?」
「街道でナイフ持って絡まれたから、縛ってきた。預けていい?」
「……あ、ああ。こちらが預かろう。街道は最近、物騒だからな。助かるよ」
門兵がちょっと引きながらも、問題なく男二人を引き渡すことが出来た。
「ありがとう。お兄さん」
「しかし、手慣れてるな、坊主」
門兵は二人の手を縛ってあるものが、元々は服だと気づいたようだ。
「お父さんが街の警備担当でさ。仕込まれたんだ。まぁ、向いてないから、こうして働きに出てきたんだけどね」
家を出ることを決めてから、嘘をつくのにすっかり慣れてしまった。リンはスラスラと、門兵にありもしないことを喋る。
――こういう意味では、スパイ向いてるのかもなぁ。
「向いてそうに見えるけど、なぁ?」
気絶している二人を観察して、門兵は首をひねって言う。
「お兄さん、僕をちゃんと見て。威厳がなくて、犯罪抑止にも役立たないよ?」
「……お前、面白いなぁ。確かに可愛い顔してるが。
まぁ、ここは力が強いなら仕事には困らない。ある意味、坊主に向いてるかもな!」
ぷくぅとむくれてリンが言えば、門兵は笑って言った。
なかなかフレンドリーな門兵だ。リンは今日一番の問題を、投げかけることにした。
「お兄さん、ひどーい。あ、そうだ。おすすめの宿はある? 今からでも部屋あるかな?」
「ここだとおすすめは、あの赤い屋根の宿屋だな、ほらあそこに見えるだろ。
まぁ、どこも空いてなかったら、戻ってこい。一日くらいなら泊めてやる」
あそこと、門兵が指差すところには、通りの奥、赤い屋根が見えた。
「え、泊めてもらって良いの?」
「コイツらを運んでて遅くなったんだろう? 子どもが野宿も可哀想だからな、特別だ」
「ありがとう」
いったい門兵には、リンが何歳に見えてるのだろうか。そう胸に疑問を抱きつつも、笑顔でリンはお礼を言って、町の中へと入っていった。
「門兵さんに聞いてきたんだけど、部屋ある?」
宿屋へと入ると、夕食時だからだろう。辺りが少しざわついていた。リンは気にせず、カウンターへと向かって声をかけた。
「……あるにはあるけど、坊や。ちっちゃいねぇ、金持ってるのかい?」
「出稼ぎに来たんだ。お金ならあるよ」
門兵と出したからだろう、女将の目元が明らかに緩んだ。どうやら馴染めそうだと、リンは懐から硬貨を数枚出した。
――あのごろつき、役に立ったね。
リンが苦労して、引きずったかいがあったというものだろう。
「毎度。部屋には簡易の鍵がついてるから、ちゃんと閉めて寝るんだよ。貴重品は、気をつけなね。
食事を食べるなら、今がちょうどだよ。食堂へ行きな」
――鍵付きか。だから勧めたんだな。
門兵は、なかなか人が良いようだ。宿屋の女将も門兵を引き合いに出してから、リンに優しい。
「ありがとう。お姉さん」




