第12話 ひ弱な令嬢はもういない、今はただ少年として
「悪い魔女だぞー」
「キャー! キャー!」
ふらりとリンが立ち寄った、ミレット王国の国境にほど近い町。
そこで走り回っている子どもたちのはしゃぎ声に、ギクリとリンは身を固くした。
同時に、背にヒヤリとしたものを感じ、リンは無意識に首へそっと手をあてた。
――魔女って、禁止用語なのに?
アスフォデル国で従騎士に上がった時、外部への任務が増えることに伴って、追加の講習を受けた時だ。
『魔法使いは、貴重な存在。神の愛し子と同義である。発見した場合は、上官へ指示を仰ぐこと。
魔法使い本人の尊厳を、遵守すること。
例外として迫害されていれば、即刻、保護するように!』
指導員は、確かにそう言っていた。
それなのにこのミレット王国は、前世を含め、平気で魔法使いを貶めているではないか。
――私はなんで、そんなことも知らなかったんだろう。
カメリアが魔法が発現した時、両親は喜んでくれた。
けれど、王子の婚約者になった際、人前で使うなと王城で厳命された。
単に危ないからかと、カメリアは不思議にも思わなかったけれど、今にして思えばやはり変なのだった。
「……」
軽く頭痛を覚えて、リンはその場から離れた。
処刑されたことを思い出し、リンは気持ち悪さに襲われていた。
「……何か食べものと、飲み物を」
立ち寄った食堂で、リンは椅子に座ると注文をした。
空気を変えたことで、リンはいくらか気持ちの切り替えが出来た。
しばらくして運ばれてきたのは、果実水とパンとナッツ。
「仕事を探しているのだけど、ここはなにかある?」
果実水を手にとって、リンは持ってきてくれた女性へと訊ねた。
「収穫もまだだし、ここの手は足りてるねぇ。鉱山の町の方は、確か人手を募集してたよ。こっから通う人もいるし」
「そうなんだ。ありがとう」
「あら、ありがとうね。家族のための出稼ぎかい? しっかりしてて偉いねぇ」
心ばかしの硬貨をリンが渡せば、女性は驚いて、さらには褒めてくれた。
――子ども扱い、いつぶりかな。
「ここは、のどかだね」
「そうさね。あ、アスフォデルとの国境は物騒だから、出稼ぎに行くのは止しときな。危ないからね。それなら、鉱山にしておきなよ」
「分かった。ありがとう」
気に入られたのだろう。女性は忠告を残して、去っていった。
――こっちのミレット王国から見ても、国境は危ないのか。鉱山なら鉄の産出が調べられるし、しちょうど良さそう。
リンは食事をしながら、そう考えていた。
食堂を出て、リンは空を仰ぎ見る。
太陽はまだ高く、今から鉱山へ向かっても良さそうだ。
町を出て、街道に沿ってしばらく歩いてから、リンは後ろを振り返った。
「……ねえ、何か用なの?」
不機嫌を隠さず、リンはそう口にした。
後ろには、いかにもがらの悪い男が二人。
食堂からずっと後をつけていたのを、リンは知っていた。
「ガキのクセに金払いが良いじゃねぇか、俺らにも恵んでくれや」
「まだ持ってるだろお?」
「……いい年して、子どもにたかるなよ。働けよな」
ため息と共にリンは吐き捨てた、とてもどうでもいい絡まれ方である。
アスフォデルでは、志願兵としても、最近では従騎士としても、リンは顔が売れていた。
久しく絡まれることはなかったから、リンは失念していた。
自分の見た目は、とても弱く見えるのだと。
「ませたガキが!」
「痛い目みろやぁ」
片方はナイフを持って、もう片方はそのまま殴りかかってきた。その動きは完全に、ど素人だった。
「――だっさ」
リンは近寄ってきたナイフ男を躱し、手刀でナイフを叩き落とし、足でそれを遠くへと蹴った。そのまま胸ぐらを掴んで、リンは男を背負い投げる。
「ぐあ!」
――せっかく二人いるんだから、連携くらい取れよな。
驚きたじろいだ素手の男へと、リンは距離を詰めて、急所へと一発拳を突き出す。
「ぐぇ」
前屈みに体勢を崩した男へ、リンはさらに首へと、かかと落としを決め意識を狩った。
「あー。これどうしよう」
地面にのした二人を見て、リンはため息をついた。




