第1話 気づけば死に戻った二回目の人生の始まり
「これより、大罪人の魔女カメリア・ジェンティアンの処刑を執行する!」
兵に連れてこられたのは、薄汚れた身なりで歩く痩せ細った一人の少女。
唇はカサつき、頬は痩け、その肌は血の気がなく死者のように青白かった。
濃い青の髪は艶が失せて色褪せている。
けれども髪から覗く瞳は、血のように赤かった。
「罪状は、魔女であることを隠し、王太子の婚約者としてあるまじき愚考の数々。
もっとも罪深きは、王太子の新たな婚約者を害したことである!」
手枷を引かれ、覚束ない足取りで歩くその姿に、不気味だと人々は囁きあった。
「魔女は殺せ!」
「なんて不気味な姿なのかしら」
――どうして、こうなったのかな。
カメリアの涙はとうに枯れ果てて、考える力も失せていた。
「あんなのが国の王妃になろうとしていたなんて」
「おぞましい」
目の前にある処刑台に、むしろカメリアは、やっと終われるのだと安堵した。
日に当たる刃が、カメリアにとっては祝福を与えてくれる神聖なものに見える。
『リア、大好き』
跪き、頭を乗せて、いよいよ終われると思った。
その時、遠く幼い日に抱いた淡い気持ちをカメリアは思い出した。
周囲の音が遠退いて、代わりに優しい声が耳に響いた。
『可愛いリア、君に一目惚れしちゃった。いつか必ず迎えに来るから、待っていてくれる?』
どうして今になって思い出すのか、これが走馬灯というものだろうか。
けれど、もう彼に会うことは叶わない。
『ふふ、幼いリアが約束を忘れないように、僕も頑張るよ』
ずっと覚えていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。私は、なにもしていないのに。
――ごめんなさい。ロス。
カメリアは静かに目を閉じて、顔も思い出せない少年に思いを馳せた。
枯れたはずの涙を一滴流し、その生の終わりを受け入れた。
◇◆◇◆◇◆◇
「……」
目が覚めて、天井が飛び込んできた。
――まだ、続くの?
これは死後の世界なのか、それにしては熱っぽく怠い。
カメリアは死んだ先にも、不調や思考があることに落胆した。
「あら、お嬢様。お目覚めですか、ご気分はいかかでしょう?」
「……?」
聞こえた声に不思議に思っていると、メイド服姿の女性が、カメリアの視界に映る。
――天使様ではないの?
これでは現世となにも、変わらないではないか、カメリアはさらに陰鬱な気持ちになった。
――私にもまだ、思うことが出来たのね。
カメリアはそう、他人事のように思った。心がもう、疲れていた。
だからまだ先があることを考えて、気が滅入ってしまう。
「まだ熱がありますね。お嬢様、何かお飲みになりますか?」
それにしても彼女、大罪人として処刑されたカメリアに、なんて甲斐甲斐しく接してくれるのだろうか。
投獄されてからの日々は、人として扱われることはなかったと思う。
カメリアは何度、目覚めたことを後悔したことだろう。
――最後には、そんな気持ちも抱かなかったけれど。
とても遠い日のようにも感じる。カメリアの人生の記憶、思い返せばとても朧気で穴だらけのパズルのようだった。
「カメリアお嬢様、大丈夫ですか? アイリスの声が聞こえますか?」
カメリアの返事が無いことを心配したのだろう、女性がそう優しく訊ねてきた。
視界に映った心配そうにしている彼女に、カメリアは瞠目する。
――待って。
なぜ、すぐに気づかなかったのだろう。彼女は――。
「……アイリス?」
「はい、お嬢様。アイリスにございます」
女性がカメリアの声を聞き、安堵したように笑顔を浮かべて、返事をした。
カメリアは、目を見開いて言葉を失くす。その姿はまさしく、生前カメリアのメイドをしていた女性その人だった。
「お嬢様!」
「私……」
がばりとカメリアが起き上がれば、長く艶めく濃い青の髪が目に入った。
見つめた自分の手は、記憶にあるよりもずっと小さい。
――なに、これ。
わなわなと震えるカメリアに、アイリスが寄り添った。
「お嬢様、急に起き上がられると体調が悪化してしまいます。お休みくださいませ」
――だって私、首を切られて死んだはずよ!
カメリアは小さな両の手で首を確かめた。その首は確かに頭と胴を繋いでいる。
その事実が、カメリアにとって、とても気持ち悪いものとなった。
「うぇ……」
「カメリアお嬢様! 誰か。誰か!」
込み上げてきた吐き気に嘔吐し、カメリアはアイリスに抱き抱えられたまま意識を失った。
その頬を、涙が一筋滑り落ちた。
――どうして。




