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コルモラーネ

夜の帳が落ちる。

アウターヴァルは、妖艶な輝きを放ち始めた。


灯されるランタン。

街には、仮面をつけた者や、フードを被った者が多くいる。


エリオ君を初めて見たとき、さすがに怪しすぎやしないかと思ったが――

この中に入ってしまえば、なるほど違和感はない。


ローレンの貴族だけでなく、この街には国内外から、様々な人間が集まるのだという。


ちなみに、カイルとエリオ君は、アウターヴァルの外で待機してもらっている。


危険かどうか以前に、未成年と言える年頃の二人を、この色街に入れることに、どうしてもためらいがあった。


この世界では、洗礼を受けた時点で大人と見なされるらしい。

それでも、前の世界の感覚を捨てきれない僕からすれば、やはり良くないと思ってしまう。


それに、カイルはともかく――

荒事になったとき、エリオ君を守りきれるかと言えば、正直なところ、まったく自信がなかった。


様々な人間が行き交う中で、同じような服装の男たちが、何人も目に入る。


白い襟の、黒い外套。

黒いハットを被った連中だ。


「コルモラーネでございますね」


僕の視線に気づいて、

リシアが小声で言った。


オイレ子飼いの私兵だ。


ちなみに、リシアも僕も、フードとマスクで顔を隠し、ユノの後をつけている。


僕はともかく、

リシアは、どうしても目立ちすぎる。


ここ数日、一人で行動していたユノに、急に連れが出来れば、警戒されるかもしれない。


そんな配慮からだったが、ユノ自身は、この数日で掴んだ感覚から、もうオイレにはバレているだろうと言っていた。


それでも、念のため、僕らは他人のふりをして動く。


ユノが酒場に入ろうとした、その時だった。


黒服――

コルモラーネたちの動きが、急に慌ただしくなる。


「何か、獲物を追っております」


ユノが走り出す。

僕も、慌ててその後を追った。


路地裏へと入っていくコルモラーネたち。

その先にいたのは――


大きな人狼ウェアウルフだった。


***


僕たちがこれまで見て、実際に戦った変種の魔物よりは、かなり小さい。


だが、本来は黒いはずの体毛は赤く、明らかに普通の個体ではない。


人狼は、コルモラーネたちの動きを警戒しつつ、

その後ろにいる僕たちにも、意識を向けているようだった。


コルモラーネたちが、レイピアを抜き、構える。


誰かが指示を出したわけでもない。

それでも、その動きは、恐ろしいほどに連携していた。


一人目が刺突を繰り出す。

身を翻した人狼に向けて、二人目、三人目と、間髪入れずに続く。


平原で、一度だけ出くわしたことがある。

だが、あのときの人狼は、こんなに洗練された動きはしていなかった。


躱し、背を引き裂き、首に喰らいつく。


血の匂いが、路地裏に広がる。


コルモラーネが、決して弱いわけではない。


――単純に、この人狼が、強いのだ。


「ユノ」


思わず、声が出た。


「普通の人狼じゃないな。

 ……コイツ」


人狼は、比較的賢い魔物ではある。

だが、この人狼が使っているのは――

どう見ても、人間の体術だった。


ここまでの知能を、本来の人狼が持ち合わせているはずがない。


人狼は、確かに強かった。

けれども、毎日リシアとユノに鍛えてもらっている僕からすれば、それほど難しい相手には思えなかった。


速い。

確かに体術も使っている。


だが、それだけだ。


ユノとは比べるまでもない。

その速さも、力特化のカイルと同等か、それ以下。


普段、あのトリッキーなユノを相手にしている僕からすれば、なんというか――

単調に見えた。


要は、読みやすい。


三人目のコルモラーネを倒した人狼が、こちらに向き直る。


僕は相手をよく見て、適切に避ける。


攻撃できる間合いだ。

だが、手は出さない。


ユノが、何かを探っているようだったからだ。


リシアに至っては、微動だにしていない。


……いや、違う。

洞窟狼のときも、そうだった。


思い出して、僕は声をかける。


「リシア。少し、下がってて」


リシアは、僕の言葉に瞬きをし、嬉しそうに「はい」と答えた。


前のときも、リシアは変異魔物が怖いと言っていた。


この程度なら、リシアの力を借りなくても、僕でも対処できる。

少なくとも、ユノがいるなら大丈夫だ。


それは慢心ではない。

これまでの経験から、自然に出た判断だった。


ただ――

気になることがある。


ユノが、何を探っているのか。


さっきの攻撃の隙に、僕はあの人狼の首を斬れた。


ユノなら、もっと容易だったはずだ。


「ユノ?」


「強いとか弱いとかじゃない」


ユノは、低く言った。


「……なんだ、この違和感は?」


「ユウ、殺すな。

 生け捕りにしたい」


ショートソードと斧を構え直し、

ユノが飛び出そうとした、その時だった。


人狼が、妙な構えを取る。


「ユウ、避けろ!」


放たれたのは――

業火一閃インフェルノ・ライン


貫通特性を持つ火炎魔術。

中級上位。


魔核を持つ魔物の中には、特定の固定魔法を使うものもいる。


アーシェル付近にいた、モアのような例もある。


だが――

少なくとも、これまで。


魔術を。

しかも、これほど高位のものを使う魔物など、見たことがない。


それは、ユノも同じだったようで、その顔には、明らかな困惑が浮かんでいた。


そして――

追い打ちをかけるように、寒気が走る。


凄まじい殺気。

圧。


それは、頭上からだった。


僕はリシアを抱え、路地裏から飛び出す。


ユノも、すでに引いている。


振り注いだのは――

毒か。

酸か。

判別する間もない。


触れた瞬間、コルモラーネたちの身体が、異臭を放ちながら溶け、消えていった。


「……なんだ、今の」


立て続けの予想外に、思わず呟く。


「今の殺気は、普通じゃない」


ユノも、短く同意する。


「……そうだな」


「熱い抱擁でございますね」


腕の中で、

リシアだけが、

相変わらず頓珍漢なことを言っていた。





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