情けない自分と止まれぬ理由
情けなかった。
何もかもが。
不甲斐なくて、惨めで、カッコ悪かった。
努力はしたつもりだった。
けれど、足りないことは分かっていた。
僕は貪欲に強さを求めてきたわけじゃない。
ユノのように、戦わなければならない環境にいたわけでもない。
殺し合いや命のやりとりなんて、ずっと遠い世界のことだった。
……分かってる。
それは、ただの言い訳だ。
届くと思った。
思い上がっていた。
ユノを本当に止めたいなら、傷ついてほしくないなら、もっと、なりふり構わずやれたはずだった。
「……リシアを連れて行くっていうのは、ダメだろうか?」
口をついて出たのは、最低の言葉だった。
けれどユノは、それを責めもせず、静かにたしなめただけだった。
ここまで、完膚なきまでに負けて。
力でも、覚悟でも、選択でも負けて。
――それで、どうして。
僕にユノを止める資格なんかある?
何もかもが足りない。
何もかもが、届かない。
このまま、抜け殻になりそうだった。
自分の未熟さに。
出来なさに。
でも、ここで投げやりになったら。
弱さを認めて、立ち止まってしまったら。
結局、何も変わらない。
今さら必死になって、どうなる?
なぜ、もっと早く必死にならなかった?
やらない理由なんて、いくらでも思いつく。
分かってる。
考えろ。
今、やるべきことをやれ。
だから、僕は剣を振る。
剣を振りながら考える。
宙ぶらりんな自分に、何ができるのか。
少なくとも――
バカだから。
弱いから。
考えられないから。
止まっていい理由には、ならない。
バカなら、動け。
弱いなら、鍛えろ。
考えられないなら、考えろ。
止まるな。
動け。
***
苦しい。
手はだるく、足は棒のようだった。
分かっている。
ユノに何かあったとき、
その瞬間に動けるようにしていなければならないことは。
それでも、僕は動きたかった。
……いや。
正確に言えば、動いている自分でいたかったのかもしれない。
僕が動けなくても、リシアが、カイルが、きっとなんとかしてくれる。
結局、僕は――
子供みたいに、自分のやりたいことをやっているだけだ。
頭を冷やそう。
文字通り、井戸の冷たい水で頭を冷やす。
息を吐き、顔を上げたとき、リシアが立っていた。
一瞬、どきりとするほど冷たい表情だった。
「……リシア?」
呼びかけると、リシアははっとしたように目を瞬かせ、そっとタオルを差し出してくる。
「あまり、ご無理はなさらぬよう」
「うん、ありがとう」
受け取って、顔を拭う。
それから――
言葉が、勝手に口から出た。
「リシア。
僕は、強くなりたい」
リシアは、じっと僕の目を見る。
逃げ場のないほど真っ直ぐに。
そして、静かに頷いた。
「はい。
いいえ――ユウは、すでに強う御座います」
その声は、揺れなかった。
「ユウがなさるべきは、ご自身を信じること
勇者にも、魔王にも……何者にでも、なれましょう」
その言葉を、リシアは当然のことのように言う。
リシアは、いつもそうだった。
いつだって、僕を信じてくれる。
最初の頃は、それが煩わしくて、重くて、負担に感じることもあった。
でも――
今は違う。
「……ごめんね。ありがとう」
そう言うと、リシアは少しだけ、目を細めた。
僕は、無力で、残念な勇者だ。
それでも――
仲間には、恵まれている。
カイルがいる。
リシアがいる。
リサがいる。
そして、ユノがいる。
そういえば。
異世界の貴族といえば、花持ちならない連中や、嫌な奴、悪い奴ばかりのはずなのに。
僕が出会ったのは、最初がリサで、それからエリオ君だった。
嫌がらせなんてしない。
傲慢にも振る舞わない。
「ありがとう」と言って、「ごめんなさい」と言ってくれる。
僕を、兄と呼んでくれる、可愛い子だ。
……何もかもが、恵まれている。
冒険を始めたとき、僕は決めた。
新生ユウは、少しずるく、賢く生きるんだって。
昔の僕は、生真面目すぎて、融通が利かなくて、狭量だった。
でも、今は分かる。
それは、「正義」なんかじゃなかった。
僕は、戦わなかっただけだ。
相手を思いやるふりをして、弱い自分を、隠していただけだ。
じゃあ――
今、何をすべきだ?
何が、できる?
弱いままの僕に。
役立たずの僕に。
僕は、リシアを見る。
「リシア。お願いがある」
一度、息を吸って。
「……僕を、助けてほしい」
そう言った瞬間。
リシアは、驚くほど――
嬉しそうに、頷いた。




