黒い獣と酒場
ユノは、酒場のカウンターにいつものように腰を下ろした。
整った容姿に惹かれて、寄ってくる男は多い。
普段なら煩わしいが、こういうときは役に立つ。
店主に酒を頼む。
きつめの火酒だ。
出された杯を、くいっと一口で飲み干す。
「いい飲みっぷりじゃねえか」
頭を剃り込んだ、大柄な男が声をかけてきた。
「どうだ?俺と一杯」
ユノはちらりと男を見てから、口の端だけで笑う。
「高くつくぜ?」
そう言って、店主に火酒を二つ頼んだ。
男は商会の人間だった。
肩に手を回しながら、距離を詰めてくる。
「このあと、河岸を変えねえか?」
ユノは、その手をやんわりと外した。
「そうしたいのは山々だけど、仕事中でね」
「仕事ぉ?」
男が眉をひそめる。
ユノは腰のショートソードを抜き取り、くるりと回してからテーブルに置いた。
軽い所作だが、意味は十分に伝わる。
男の表情が変わった。
「リベル・オルムから来た冒険者だ」
ユノはそう名乗った。
「この街には、仕事で来てる」
酒を飲みながら、視線を逸らすふりをして続ける。
「貴族が何人も消えてるだろ?その件を追ってる」
男は黙って聞いている。
「鴟梟商会、だったか。
俺は、あそこが怪しいと思ってる」
そう言いながら、少し酔いが回ったふりをして店主にもう一杯頼む。
そして、身を乗り出して言った。
「さっさとよこせよ」
その拍子に、首元から下げていたロザリオが揺れた。
「……おっと、危ねえ」
慌てて胸元に押し隠す。
だが、男の視線が一瞬、そこに吸い寄せられたのを、ユノは見逃さなかった。




