訓練の成果と実力の差
「ですが、具体的にはどうなさるおつもりですか?」
リシアが尋ねた。
「やることは同じだ」
ユノが答える。
「少し派手に、聞き込みをする」
ユノの考えは、こうだった。
リベル・オルムで受けた、貴族失踪事件の調査依頼を理由に、自分が動く。
ユノはすでに、
一段ランクを上げて
暴風級《A級》の冒険者になっている。
それだけでも、シュライバー商会の上役の耳には届くはずだ。
――高位冒険者が、事件を嗅ぎ回っている。
「しかし、それだけでは弱うございます」
リシアの指摘は、もっともだった。
「ユノア様が高位冒険者であっても、リシア達は大規模クランではありません
エルネスト様のような、暁の盾のような規模であればともかく、それだけで相手が動くとは限りません」
ユノは黙って、懐から何かを取り出した。
じゃらり、と、小さな音がする。
リサから預かっていた――
あの法王さまから授かったロザリオだった。
「だから、これも使う」
ユノは、あっさりと言う。
「聖務院が動いていると思わせる」
ローレンで受けた依頼であれば、裏はすぐに取られる。
だが、リベル・オルム。聖務院。
あるいは、リュミナート。
その名が絡めば話は違う。
冒険者ギルド本部やリュミナート相手に裏取りをするのは、いかにオイレでも容易ではない。
そして、自分たちが疑われている、そう思えば、否が応でも、ユノの話を聞きたくなる。
ユノは、口元だけで笑った。
カイルが口を開く。
「それ……でも、危なくない?」
要するに、ユノを餌にして連中を釣り上げるということだ。
どう考えても、安全な策ではない。
ユノは、一瞬だけカイルを見る。
それから、迷いなく言った。
「どうだろな?」
一拍。
「ただ」
ユノは、不敵に笑った。
「危ないほうが面白いな」
***
とりあえず、アウターヴァルに向かうのは俺だけで十分だ。
ユノはそう言った。
夜の街に不慣れなお前たちが行っても悪目立ちする、と。
もちろん、僕は反対した。
ユノだけを危険な目に合わせるなんて、絶対にできない。
けれど。
「気持ちはありがたいが、足手まといだ」
きっぱりと言い切られる。
分かっている。そんなことは。
それでも、譲れなかった。
昔の僕なら、ここで折れていただろう。
「ダメだ。一人では行かせられない」
ユノは目をすっと細めると、腰のショートソードを抜き、僕の鼻先に突きつけた。
エリオくんが息を飲み、リシアが一瞬動く気配を見せたが、僕が手で制した。
「ハンデをやる。ショートソード一本だ」
***
宿屋の裏庭を借りて、僕とユノは対峙していた。
ユノはいつものように、低く、低く構える。
肉食獣が獲物に噛みつく直前の姿勢。
ただ、その前に立つだけで、身体がすくむ。
僕は目に、身体に、剣に魔素を通していく。
型は奇をてらわない。
けれど、どんな方向にも動けるように、呼吸を深く、浅く、整えた。
開始の合図などなかった。
ユノが地面を蹴る。
空間を切り取るような高速移動。
洞窟狼と戦ったときには、本当に消えたように見えた。
だが今は、ぎりぎり目で追える。
対応できる。
かわして反撃に繋げようとするが、そんなに簡単じゃない。
くるりと回るショートソードは曲芸のようだが、そんな生易しいものじゃない。
ユノの変則的な動きが異常だということは、僕とカイルが一番よく知っている。
横薙ぎの一撃はフェイク――
と見せかけて、フェイクじゃない。
そこに意識を取られると蹴りが飛んでくる。
蹴りを警戒すれば、次は殴りだ。
分かっていても、防戦一方だった。
でも、これでは終われない。
いつもなら「そんなもんか?」と煽ってくるユノが、今日は何も言わない。
それが逆に、重かった。
僕は空気を圧縮した玉を無数に撃ち込む。
片手で剣を操りながら攻撃をかわし、距離を取る。
僕がユノに勝っている点があるとすれば、魔術を使えること、それだけだ。
攻撃の合間に圧縮した空気弾を放ち、距離を取る。
そしてまた、同じことを繰り返す。
気づかれてはいけない。
ユノが距離を取った。
今だ。
僕は渾身の空気弾を撃ち込んだ。
遅くてもいい、高威力の一撃。
ユノはそれをショートソードで弾く。
何事もなかったかのように。
だが、これで終わりじゃない。
無数に撃った空気の玉の一部は、まだ上空に留まっていた。
威力は低いが、極めて見えづらく、数が多い。
僕はそれらを四方八方から、ユノに向けて撃ち込む。
これが、僕のその名の通りの隠し玉だ。
リシアに教わった魔素操作によって、僕は空気弾を留め、曲げ、自在に動かせるようになっていた。
一度に操作できる数には限界がある。
だが、不意打ちなら対処しきれない数を、今の僕は扱える。
ユノは驚いた。
一瞬だけ、確かに。
そして次の瞬間。
すべてを、難なく叩き落とした。




