一時の休日
僕たちは宿に戻り、依頼の内容を確認した。
それは確かにギルドが受理したもの――いわゆる指名依頼というやつだ。
とはいえ、ヴォルフさんが貴族たちから信頼されているとは、にわかには信じがたい。
ユノはどこか不機嫌そうに、窓の外を眺めていた。
「これって本物なのかな?」
僕と同じことを考えていたのだろう。カイルがそう口にする。
リシアは封書をじっと見つめたまま、淡々と言った。
「本物の定義は分かりかねますが、少なくとも、ギルドが発行するものと同じ形式で作られていることは間違いありません」
リシアがそう言うなら、そうなのだろう。
依頼内容は、アルト=ローレンから北側のローレン属国領――セイレン領までの護衛。
馬車などの移動手段や護衛人数の規定はなく、要するに「金は払うから、すべてこちらに任せる」という形だ。依頼者がこちらを信用していることは分かる。
だからこそ、ヴォルフさんのことを思うとなお解せない。ああ見えて、本当にやり手なのだろうか。
素性を詮索しないこと、この件を他言しないこと――そういった条項には細かく言及されていた。
少なくとも「他人に知られたくない」という意図は、よく分かった。
ローレンの失踪事件の手がかりになりそうではある。
けれど、あまりにも降って湧いたような出来事に、正直、僕は困惑していた。
運がいい、で片付けていいものなのか。
このまま依頼を無視するという選択肢もある。
依頼主とは接触せず、セイレン領を独自に調査するという手もある。
ここ数日、僕たちは貴族失踪事件の聞き込みを続けてきた。
その件で、事件を起こしている何か――あるいは誰かに目をつけられている可能性も、否定できない。
そこまで考えて、ふと立ち止まる。
けれど、それが法王さまの言う「深淵の揺らぎ」や異変と関係があるのか、深淵の鯨が現れる兆しなのか――そのあたりは分からない。
分からないことだらけだ。
ひとりでうんうん唸っている僕の前に、湯気の立つお茶が置かれた。
顔を上げると、リシアが僕を見ていた。
「冒険者とは、依頼をこなすものだとリシアは理解しております。
ユウの思うままを、リシアはお手伝いいたしましょう」
僕はふっと息を吐いた。
足りない頭であれこれ考えても仕方がない。確かに冒険者は依頼をこなすものだ。一度受けて、それを放り出すのは違う。
「リシア、ありがとう」
そう言って、お茶を口にした。
***
依頼は、明後日の早朝。
だから翌日は、休息日にすることにした。
ラザリスからここまで、僕たちはずっと動きっぱなしだった。
気づけば、立ち止まる暇もなく走り続けていた気がする。
ユノとカイルには、今日は一日、羽を伸ばしてもらう。
どこへ行くのかは聞いていないけれど、まあ、あの二人なら大丈夫だろう。
消耗品の買い足しも兼ねて、僕はリシアと街へ出ることにした。
リシアと二人きり――考えてみれば、なんだか久しぶりだ。
始まりの街アーシェル。
冒険者の街リベル・オルム。
聖地ラザリス。
いくつもの街を旅してきたけれど、アルト=ローレンは、それらと比べても一段と別格だった。
まず、単純に広い。
どこまで行っても、整備された街並みが続いている。
この首都とは別に、工業区や商業特区のような都市も存在し、さらに王立魔法学園を擁する学術都市まであるらしい。
加えて、アルカナ家のような大貴族が治める領地にも、それぞれ大規模な街があるというのだから、規模が違う。
リベル・オルムやラザリスでは貴重品だった紙も、ここでは当たり前のように流通していた。
新聞はもちろん、買い物をすれば紙袋で包んでくれる。
夜になれば、ガス灯が自動で灯る。
上下水道は当然のように整備され、噴水や公共施設、果てはスタジアムまである。
他の街と比べると、文明が一段――いや、二段くらい先を行っている気がした。
「……すごいな」
思わず、そんな言葉が漏れる。
「はい」
隣を歩くリシアが、短く頷いた。
「ローレン王国の中枢です。
機能と効率を最優先した都市構造になっています」
僕とリシアは、東大通りを下見がてら、並んで歩く。
大通りには様々な商店が立ち並び、馬車がひっきりなしに行き交っていた。
人の流れも多く、活気に満ちている。
(……明後日、この通りの東端で待ち合わせ、か)
僕はそんなことを考えながら、
リシアと並んで、ゆっくりと歩き続けた。




