環穿の牙《かんせんのきば》
探していた男は、驚くほどあっさり見つかった。
ヴォルフさんの捜索を始めてすぐ――環穿の牙のグレイズ商会を訪ねたときのことだ。
ヴォルフさんが直接商いをする店なら、何か情報も集まるだろう。
そう踏んで来てみれば。
探し人は、実にあっさり、そこにいた。
「いやいや、皆さんお久しぶりですねー。その節はどうも」
にこやかな笑みを浮かべ、カウンターに立っていたのは、紛れもなくヴォルフ・グレイズその人だった。
聞けば、ラザリスで検閲に引っかかり、中には入れてもらえなかったらしい。
周辺で売れるものは売り、仕入れだけして引き上げてきたのだという。
「まったくもって、聖職者というものは解せません。
こんなに素晴らしい商品だというのに……しょうもないものばっかり売れて、肝心な物が売れないんですよねー」
ヴォルフさんは、木彫りの“なんだかよく分からない人形”を撫でながら、わざとらしくため息をついた。
僕の世界のこけしに似ている。
……似ているが、微妙にテイストが違う。
なんというか。
こけしより、はるかに間抜けな顔をしているというか――うん、間抜けだ。
「それで、皆さん揃って、私に何のよう……!?」
そこまで言って、ヴォルフさんはハッと気づく。
「いやー、まさか、まさか。分かっていますよ。
みなまで言う必要はありません。ハーゼさん、あれを!」
今まで気づかなかったが、奥で足を組んで新聞を読んでいる店員らしき女性がいた。
ヴォルフさんが“分かった顔”でそう言うと――
メイド服のようなものを着たその女性は、新聞から顔すら上げずに言った。
「“あれ”じゃ分かりませんよ。というか、自分で取ってきてください」
「……はい……」
ヴォルフさんは、ちょっとシュンとしながら奥へ入っていく。
何を持ってくるつもりなのだろう。
すごく得心がいった顔をしていたけれど。
僕はカイルと顔を見合わせ、リシアを振り返る。
リシアも分からないらしく、首をかしげていた。
ユノは面倒なのか、後ろの方で腕を組んで目を閉じている。
しばらくして、ヴォルフさんが“たくさんの何か”を抱えて戻ってきた。
「買い逃したと思って追いかけてきたんですね、私のことを!」
そう言って差し出されたのは、あの――ひたすらに頷く牛だった。
今度のは……ローレンに来る途中で見た赤角牛だっただろうか。
赤い角を持つ、魔物仕様になっている。前のは黒色だった。
「こちら、新作でして!
お近づきの記念に、お一つずつ差し上げます!
ほら見てください、この赤い角! よくできてるでしょ?」
ヴォルフさんは一人で盛り上がる。
「いやー嬉しいなー。これの良さが分かってくれる人がいるなんて!
いやいや、遠慮は要りませんよ。
有力な冒険者に恩を売るのも、商売人の技量と言いますから!」
勝手に話が進んでいく。
「実は後から気がついたんですが――ユノアさんとリサリエルさん、パーティーですよね?
あのとき、ちゃんとご挨拶できてなかったのを後悔してたんですよ。
いやぁ、運命! 運命ですよこれは!」
相変わらずの調子で、喋り続ける。
その間に、リシアはすっと商品棚の方へ姿を消し、ユノは――もう居なかった。
取り残された僕とカイルは、その日、ヴォルフさんの話を延々と聞かされ、そして延々と水を飲む鶏――鶏蛇バージョンまで渡されて、帰路についたのだった。




