城のない首都
憧れの王都――そう思っていた。
まさにファンタジー世界の街並みが、目の前に広がっていた。
花の都、アルト=ローレルは、ラザリスともリベル・オルムとも違う。
馬車が道を行き交い、ガス灯やマロニエの並木が並ぶ。
ハットを被った紳士に、日傘を差した淑女。
新聞配達のハンチング帽をかぶった少年が街を走り、小さな出店や露天商が軒を連ねる区画もある。
僕が自分の世界で見て、思い描いていた“異世界の街”が、そこにあった。
街を見渡して――ふと、違和感に気がつく。
そう、勇者ものの中世風の街とくれば、真ん中にどーんとある、あれがない。
高い聖堂もある。時計塔すらある。
けれど――
「……お城がない」
思わず口に出していた。
僕のイメージでは、中央に大きな白い城があって、レンガ造りの街並みがそれを取り囲んでいるはずなのに。
僕のつぶやきに、カイルが言った。
「アルト=ローレルは首都で、王都のヴァル=ローレンは別だよ」
そういえば、リサの資料にも書いてあった気がする。
“王家の谷に、ローレンの王都がある”――と。
どう見ても、ここは谷じゃない。
「ここから馬車で一日二日。山の方に入った谷の奥がヴァル=ローレンだ。
まあ、俺たちには用のない場所だな」
ユノが、ぶっきらぼうに付け足す。
ローレンという国の中枢――実質的な決定権は、すべてアルト=ローレルにある。
物資の流通も人口も、こちらの方がはるかに多い。
王族や貴族の正式な居所はヴァル=ローレンにあるが、それは形式的なものに過ぎない。
基本的には、王も貴族たちも上級魔道士たちも、ここアルトローレルに別邸を持ち、生活の拠点を置いているのだ。
都市の中央には貴族街があり、それを囲むようにローレン一般市民の住居・生活圏が広がっている。
ラザリスにも似ているが、そこまで厳密ではない。
貴族街と一般街が分かれている――それくらいの違いだ。
中央には六神信仰の教会がある。
空洞をもつ背の低い塔の中心には、アストレアの像が祀られているのだという。
法と秩序の街。
それこそが、アルトローレルなのだ。
***
宿を取り、僕たちはヴォルフさんたちの足取りを追った。
環穿の牙は、ローレンを中心に勢力を伸ばす新興の商人クランだ。
クランリーダーはヴォルフ・グレイズ。
道中で出会ったあの商人で、まず間違いないだろう。
扱う商品はオリジナルのものが多く、調度品から実用品まで多岐にわたる。
ローレンの貴族にもそれなりの顧客がいるらしく、最近では国外にも商圏を広げているという。
同時に、ローレンの異変についてもいくつかの情報が集まった。
ひとつは、貴族の次男坊や三男坊――つまり当主の座から遠い者たち。
あるいは貴族とは名ばかりの、少し格の落ちる家の人間が相次いで失踪していること。
ただし、数が多い以外は、それ自体は別段珍しくない――そう扱われている、ということ。
もうひとつは、変異種の魔物についてだ。
僕たちが遭遇したような、実質、暴風級《A級》のリサやユノが手こずるような、とんでもない個体ばかりではないらしい。
多くは通常より少し強いか、あるいはむしろ少し弱い程度の魔物だという。
などなど。
初日としては十分な成果だと思える程度には、情報が集まった。




