黒い獣と麦畑
遠くまで広がる麦畑を見て、少し浮かれていたんだろうか――と、ユノは思った。
確かに、いつもより饒舌だった気がする。
故郷に、思い入れがあったわけじゃない。
そもそもユノが生まれたのは、ここよりももっと北の、痩せた土地だ。
こんな立派な畑は望むべくもなく、
細い芋や、砂糖大根がわずかに採れるだけ。
魔物はそれなりにいたが、正直――
臭くて、食えたもんじゃないのがほとんどだった。
故郷に良い思い出があるかと聞かれれば、
正直、ないと言える。
生きる術を教えてくれた猟師のじーさんや、
命を拾ってくれたシスター、
孤児院の仲間たちには、多少の思い入れはある。
けれど、それだって――
冒険者になる前、久しぶりに故郷を訪れた時には、
じーさんはとっくに死んでいて、
孤児院も戦争で焼かれ、跡形もなかった。
そう考えると、
とてもじゃないが「良い思い出」なんて言えない。
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ユノの話を聞くたびに、
ユウは決まって、申し訳なさそうな顔をする。
自分のことは棚に上げて、
こっちの気持ちばかり気にするような言い方をする。
むしろユノにとっては、
見ず知らずの世界のために、
命がけで旅をしているユウの方が不思議だった。
聞けば、元の世界では戦うこともなく、
食べ物に困ることもなく、
平和に生きてきたらしい。
万能で、不思議で、
何でもできそうなリシアがそばにいる。
もっと違う生き方だって、
選べただろうに。
それこそ、
近所のおばちゃんのために命を張るような真似をする意味なんて、
どこにある?
ユノにとって、
一番嫌いな種類の――
何もかもを救おうとする偽善者。
……なのに。
なぜか、ユウのことは嫌いになれなかった。
こういう生き方しかできない奴なんだろうな、と。
そう思わせる何かが、ユウにはあった。
そんなことをつらつら考えながら、
横に座る、ぽやんとした男と話していると――
ユウが、妙に納得したような顔をしているのに気づいた。
何となく聞いてみると、
ユノがなぜ騎士になったのかを考えていたらしい。
経緯は大体合っている。
けれど、自分のことを美化しすぎだろ――と、
思わず苦笑いが漏れた。
そして、真面目な顔をして。
「ユノは、優しい人だから」
そんなことを言ってくる。
本当に、調子の狂う男だと、
ユノは心の底から思った。




