カイルの覚悟
連れて行かれたのは、石造りの訓練所だった。
僕は、困惑していた。
カイルとエルネストさんが、武器を手に向かい合っている。
木剣でも、訓練用の模造刀でもない。――本物の武器だ。
さっきまでは、話を聞いてくれそうな雰囲気だったはずなのに。
どうしてこうなっているのか。
僕には状況が掴めなかった。
隣に立つユノを見る。
いつもの面白がるような顔じゃない。真剣な目で、ただカイルを見つめている。
僕の視線に気づいたユノは、短く言った。
「クランのことは、クランに任せろ」
それだけだった。
――以前、カイルが言っていた。
クランとは家族なのだと。
命を預け、信用し、信頼する存在。
本物の家族ではないからこそ、血の繋がりがないからこそ、その絆は時に本物の家族よりも重くなるのだと。
エルネストさんが構える。
それは、僕が最初にリシアから教わった型――そのままの形だった。
まるで教本のお手本みたいな、無駄のない構え。
けれど。
どうしてだろう。
直接対峙しているわけでもないのに、
どう打ち込んでも、まるで勝てる気がしなかった。
分かりきった攻撃。
分かりきった防御。
分かりきった動き。
そのすべてが、最初から届かない。
子犬が狼に噛みつく?――違う。
雀が鷹に挑む?――それも違う。
何千年も生きた大木を、棒切れ一本で叩き切ろうとする。
そんな、どうしようもない無謀さだった。
カイルが、ちらりとこちらを見た。
そして、何かを決意したように目を閉じる。
――まさか。
このまま、本気の殺し合いになるなんてことは……?
止めに入るべきなのか。
そんな考えが頭をよぎる。
でも、できるわけがない。
僕が割って入って、何が変えられる?
エルネストさんと話し合わなければ――そう思っていたのに。
結局、カイルに任せきりじゃないか。
僕は、自分が不甲斐なくて、情けなかった。
必死に向き合おうとしているカイルを、応援することしかできない。
その事実が、胸に重くのしかかる。
「それで、よろしいのです」
リシアが言った。
まるで僕の心を読んだみたいに、静かに。
握りしめていた僕の手に、リシアの手がそっと触れる。
少しだけ、ひんやりとした感触。
「ああ。信じて、見といてやれよ。
アイツの覚悟を」
ユノも、そう言った。
そして――
戦いは始まった。
***
カイルとの戦いを終え、エルネストさんの許しを得て、正式に暁の盾を退団する手続きを行った。
同時に、ギルドで星屑の願いのクラン結成申請もしなければならない。
このあたりの段取りは、リサがすべてリシアに教えてくれている。
……今回も相変わらず、僕は何もしていない。
なんというか、もう色々と面目ない。
役に立ちたいのに、追いつけない。
---
帰り際、エルネストさんがユノに声をかけた。
そういえば、この二人は顔見知りだった。
エルネストさんは昔、ローレン王国の騎士団に所属していて、同じく在籍していたユノとは、その頃に知り合ったらしい。
――というか。
ユノと騎士団。
どう考えても、似合わない組み合わせだ。
規律とか、規則とか、ユノは絶対に嫌いそうなのに。
実際、本人に聞けば案の定だった。
「半年くらいで嫌になって抜けたな……いや、むしろ、よく持った方だぜ」
とは本人の談である。
-***
「しばらく、この街にいるのか?」
エルネストさんがそう尋ねると、ユノは肩をすくめた。
「面倒事の最中でね。
用意ができ次第、すぐローレン王国に向かう」
そういえば――とユノは思い出したように、変異種のこと、そしてローレンで起きている異変について尋ねた。
その事件に自分たちが関わっていることも含めて。
エルネストさんも噂程度には把握していたらしく、今後は注意して見ておくことを約束してくれた。
「何か分かったら、伝書鳥を飛ばそう」
そう言ってくれる。
***
暁の盾の本部を後にしようとした、そのとき。
エルネストさんが、らしくない様子で、少し戸惑いながら口を開いた。
「……ユノア」
呼び方が、少しだけ柔らかい。
「なんだ、その……
今度、落ち着いたら、ゆっくり飲みにでも行こう」
ユノは少し考えてから、手をひらひらと振った。
「ああ。まあ、気が向いたらな」
僕とカイルは顔を見合わせて、何かを悟った。
――が。
あえて、何も言わないでおくことにした。




