この世界の片隅で
カイル・バレットは、ずっと迷っていた。
エルネストに連絡しなかったのは、自分の弱さからだ。
宙ぶらりんのまま、旅を続けてきた。
楽しかったから。
楽だったから。
居心地がよかったから。
自分みたいな人間が、この世界の命運に関われるなんて、欠片ほども思っていなかった。
英雄に憧れたのは事実だ。
勇者になりたかったのも、本当だ。
そして――
そうなれないことを、誰よりも理解していた。
だからせめて、勇者の傍らにいたかった。
エルネストという、憧れの英雄の傍らに。
今がどんなに楽しくて、居心地がよくても、そのことを有耶無耶にしたままではいけないと、心のどこかで分かっていた。だけど後回しにしてきた。
でも、もうだめだ。
この人たちを、適当にしてはいけない。
ちゃんと、向き合わなければならない。
***
「ゆうさん、俺……リベル・オルムに戻らなくちゃいけない」
カイルは、そう言った。
仲間だと言ってくれたことが、嬉しかった。
必要だと言ってくれたことが、嬉しかった。
だからこそ。
ちゃんとエルネストと話をして、暁の盾を抜けて、
そして、新しいクランに所属する。
『星屑の願い』の結成が決まった翌日、カイルは勇気を振り絞って、ユウにそう告げた。
ユウは、少し不思議そうな顔をして、
「うん、そうだよ」
と、まるで当たり前のことのように言った。
カイルがきょとんとしていると、ユウは慌てたように続ける。
「いや、だってさ。新しいクランにカイルも入ってくれるんだから、エルネストさんとも話さないとね。
……っていうか、カイル、ごめんね。
ちゃんと先に話もせずに、クランに誘っちゃって」
逆に、申し訳なさそうな顔。
「カイルのほうが年下なのに、頼りっぱなしで……
エルネストさんへの説明、どうしよう?
……あ、いや、それをまたカイルに聞くのはダメだよね。
でもさ、僕、この世界のこと、やっぱりあんまり分かってなくて……」
一人で、勝手に悩み始める。
カイルは、思わず吹き出した。
――何なんだろう、この人は。
どうして、こんなにも人のことを想えるんだ。
自分だって大変だったはずなのに。
急に異世界に転生させられて、戸惑って、優しかった家族とも、友達とも引き離されて。
それでもユウが考えているのは、カイルが困らないか、エルネストが不愉快な思いをしないか、そんなことばかりだった。
馬鹿じゃないか、とすら思った。
自分も死にそうな目に遭って、これから先だって、よほどユウのほうが大変なのに。
「ユウさん、クラン抜けるのなんて、そんな珍しくないよ。
引き抜きなんて当たり前だし、上級クランなんて、もっとバチバチやってる」
そう言って、カイルは胸を張った。
「俺くらいの大物になったら、引く手数多だからね!
心配しなくて大丈夫!!」
笑ってみせる。
エルネストは、本物の英雄だった。
でもユウは、勇者だ。
半端者の自分が鞍替えしたところで、おかしな話じゃない。
そんなことで、この人に心を痛めてほしくないと、
心から思った。
強くなりたかった。
賢くなりたかった。
エルネストの助けになりたかった。
それだけだったはずのカイルは――
確かに、もう一歩、前に歩き出していた。




