聖法国大図書館《グラン・アーカイブ》
フォル・ディアン神壁、リュミナ神壁を越える。
神壁は、奥へ進むほど高くそびえ立ち、
最後のノワール神壁は、ここからでもその巨大さがはっきりと分かった。
その中央に、ひときわ高くそびえる塔がある。
真理と根幹の塔。
塔の天辺付近では、
風の祠で見たものとよく似た、
螺旋状の光が、ゆらゆらと揺らめいていた。
だが、僕たちの目的地は、あの塔ではない。
向かうのは、
聖法国大図書館。
世界最大にして、
膨大な蔵書量を誇るこの図書館には、
この世界のあらゆる知識が収められている――
そんな噂すらある。
本来なら入館には、
いくつもの手続きが必要らしい。
けれど、リサが受け取ってきたロザリオを提示すると、
あっさりと通された。
さすがは法王様からの贈り物だ。
効力が違う。
---
司書に案内されたのは、
図書館の中でも立ち入りが厳しく制限された地下所蔵庫。
終末蔵と呼ばれる区画だった。
ここには、
深淵の鯨に関する記録、
世界の終末について記された書籍、
あるいは記録用の魔導器が収められているらしい。
羊皮紙、
どこかアラビアンナイトに出てきそうな紙質の書物、
果ては石版まで。
多種多様な文献や書籍、
スクロールのようなものが、
棚いっぱいに並んでいる。
試しにいくつか手に取ってみたが――
なるほど、まったく分からない。
僕とカイルとユノは、
早々に「戦力外通告」を受けた。
それでも、
「何か気づくかもしれないでしょ。
異世界の知識が役に立つ可能性もあるわ」
と、引き続き捜索を命じられる。
リサとリシアは、
何かを真剣な表情で読み込んでいる。
ユノとカイルは、
記録魔導器や挿絵の入った書籍を中心に。
そして僕は、
僕なりに「読めそうなもの」を探していた。
……とはいえ。
何について、
どう調べればいいのかすら、分からない。
目的も定まらないまま、
ふらふらと書架の間を歩いていると――
他とは違う、
うっすらと蒼い神官服を着た女性が目に入った。
上段の棚にある本を取ろうとしているのか、
必死に背伸びをしている。
……どう見ても、
届いていなかった。
***
「ありがとうね」
女性はぺこりとお辞儀をした。
まだ若く、小柄な女性だった。
長い亜麻色の髪を緩く二つに結び、
澄み切った青い瞳が印象的だ。
そして、神官服の上からでも分かる、
ふくよかというか、グラマラスというか……
正直、少し目のやり場に困る体つき。
僕だって男だ。
つい、目がいってしまう。
見ていると、
なんだかウサギのロップイヤーを思い出した。
「ここの本棚って全部背が高くて困るのよっ。
本当にね、もっと低くしてくれたらいいのに」
女性――イグナさんは、そう言って憤慨していた。
けれど、よく見ると、
どの棚にも可動式のはしごが取り付けられている。
あれを使えば普通に取れるのでは……と思ったが、
僕は口をつぐんだ。
この図書館の司書さんだ。
新人かもしれないが、
そのくらい分かったうえで愚痴っているのだろう。
「偉い人しか、はしごは使っちゃダメ」とか。
前世でも、そういう面倒なローカルルールは山ほどあった。
「ここには何しに来たのかな?」
気軽な雰囲気で話しかけられ、
僕の口は、つい軽くなった。
すべてを話したわけじゃないが、
自分がとても遠いところから来たこと、
病気のこと、身の上話を、少しだけ。
法王様のことは伏せたまま、
友人が深淵の鯨について調べていることも話した。
イグナさんは得心がいった様子で、
「なるほど」と小さく呟いた。
そして――
「ローレンの偉い方が来るって聞いてたけど、
坊やはそのお付きの子なのね!
それで、ご主人様が深淵の鯨の情報を調べている……
わかったわ!」
そう言って、
大きな胸をどん、と叩く。
「お姉さんに、任せなさい!」




