銀月の夜 2
夜更け、宿の部屋。
灯りを落とし、静寂が満ちる。
リシアはゆっくりと目を閉じ、胸の奥へ意識を沈めた。
(……あなたは、何を意図しているのですか)
ユウが楽しめるように。
ユウが苦しみすぎないように。
ユウが“冒険”を感じられるように。
それは、いつも変わらなかったはずだ。
だが――今回の異変は違う。
(あれは“必然”ではなく、“介入”でした)
アーシェル街道。
明らかにユウたちの力量を逸脱した魔物。
リシアが動かなければ、ユウは死んでいた。
(偶然……? それとも――
ユウが、“本物”だから?)
そう認識したから、動いたのだろうか?
(……いいえ。それだけでは整合性が取れません)
今回の変種洞窟狼は強敵ではあったが、
ユノとリサが揃っていれば“ぎりぎり勝てる”レベルだった。
そう判断したからこそ、リシアは手を出さなかった。
観測するために。
だが――
胸の奥に、じわりと恐れが広がる。
ユウは大切な存在。
それは疑いようもなく真実だ。
彼女もまた同じ想いを抱いているのだろうと、確かに分かる。
しかし――
今回の動きは説明できない。
(あなたは、ユウに……何をさせたいのですか?
正常なのか、異常なのか……見極めなければなりません)
銀の瞳に、静かな影が落ちる。
(ユウを傷つける要因があるなら――
たとえそれが“あなた”であっても。
リシアは排除しなければなりません)
静かに、しかし確かに“決意”が芽生える。
---
ユウが眠ったのを確認し、
リシアはそっと外に出た。
銀の瞳は夜の青を映している――
けれど、その奥には、
ほんのわずかな“濁り”が揺れていた。
胸の奥が疼く。
理由は分かっている。
ただ――認めたくないだけ。
胸に押し込めるように、小さく呟く。
「……何に、乱れているのか」
その声は誰に向けたものではない。
“見えない誰か”へ問うような響きだった。
本当は、とっくに気づいている。
深層の揺れ――その正体に。
リシアは胸に手を当て、ひとつ小さく首を振る。
「……違います。
違うはずです。
違わなければ、なりません」
自分に言い聞かせるように、
必死に形にした言葉だった。
そっとユウを思い出す。
穏やかな寝息。
無防備な寝顔。
胸の痛みはほんの少しだけ和らぐ。
「……ユウ。
リシアは……あなたをお守りいたします。
深層がどう揺れようとも」
その瞳は――静かで、優しくて、
それでいて、ほんの少しだけ怯えていた。




