誰もが何かを恐れている.1
すべてが終わって、ガゼフのパーティーメンバーを連れて僕たちは上層へ戻った。
洞窟狼は群れで行動する。
もしかしたら、あの巨大個体のような“変種”が他にもいるかもしれない。
だが――そんな群れに遭遇してしまえば、今の僕たちではどうしようもない。
とりあえずギルドに報告し、今後の方針は彼らに任せるしかなかった。
そういえば――ガゼフは結局見つからなかった。
ガゼフは生き残りの数人を連れて七層まで降りたらしい。
だが、例の巨大な洞窟狼に追われ――
結果として、囮になった。
僕らからすれば心底嫌な奴だったが、
パーティーリーダーとしての誇りは、最後まで捨てなかったのだ。
「俺たちにガゼフの旦那ほどの力があれば……」
助けた男は力なくそう呟いた。
僕の胸の内は、とても複雑だった。
***
「あんた一体どういうつもりなのよ?!」
ギルドでの報告を終え、宿に戻るなり、
リサは開口一番に怒鳴った。
どうやら探索中だったため、
リシアへの不満をずっと我慢していたらしい。
帰り道、いつもは騒がしいリサの口数が妙に少なかった理由が分かった。
リシアは「はて?」と言いたげに、小首をコテンと傾げる。
――正に火に油だった。
「あの変種の洞窟狼との戦いの時のことよ!
なんで魔術を使わなかったの?!」
「ですから、リシアは申し上げました、ユウに…」
リシアが静かに答えかけたところで、
リサが怒鳴り声でそれを遮る。
「あんなとんでもない魔術を“無詠唱”で使う魔術師の魔素が、
そんな簡単に枯渇するわけないでしょ!」
確かに――あの時のリシアはどこか様子がおかしかった。
「リサ、リシアにもリシアの理由が――」
リサの怒りの矛先は宥めようとした僕にも飛んできた。
「あんたも! あんたよ!
何、あの超圧縮した空気の玉は?!
あんな魔術知らないわよ、それにあんたも無詠唱だったわよね!?
なんなのよ、あんたたち!!」
(あの全然当たらなかったやつ……そんなにすごい魔術だったの?)
僕は呆気に取られた。
威力を上げれば遅くて当たらないし、速く投げれば当たるけど威力はないし。
正直、“ダメダメな目眩まし魔法”くらいに思っていた。
“速くて強くて凄い”なんて、そんな都合のいい魔術、どうやって作るのかは知らないが、なんせあれはへなちょこ魔術だ、リサに怒られるいわれはない。
逆に僕が助けを求めるようにリシアに目を向けると――
リシアは何かを考えるようにじっと黙し、
そして深々と頭を下げた。
「リサリエルさま……申し訳ありません。
リシアは、本当は怖くて……足が竦んで動けなかったのでございます」
「そんな、わけ……」
言いかけたリサは、その続きを飲み込んだ。
リシアは真剣な面持ちで、まっすぐリサを見ていた。
そういえば、僕だって勝手に“リシアなら何でもできる”と思い込んでいた。
けれど、リシアも僕と同じだ。
魔物と戦い慣れているわけじゃない。
静謐の森で一人暮らしだったのだから、
冒険だってこれが初めてだ。
「リサ、ごめん。僕らは旅を始めたばっかりで……
僕も、リシアのことを万能だと思ってしまってて……」
リサはフンと鼻を鳴らし、
「今度からは、そういうことは素直に先に言いなさい!」
とだけ言い捨て、
来たときと同じ勢いでドスドスと部屋を出ていった。
その背中を見ながら、ユノが苦笑いする。
「忙しーやつだな、ほんとに」




