何事にもある例外
七階層をしばらく進んだが、その奥地で血痕は分散し、途切れていた。
僕たちは周辺をくまなく探す。
そして――ついに見つけ出した。
廃墟街の家の中。
崩れかけた暖炉の中で、その男は身を縮め、ぶるぶると震えていた。
足に酷い怪我を負った男に、僕は見覚えがあった。
ガゼフの取り巻きの一人。パーティーメンバーだ。
酷く怯える男をなんとか宥め、上級ポーションを飲ませる。
混乱していた男はしばらくして落ち着きを取り戻し、
ぽつりぽつりと事の顛末を語り始めた。
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***
一週間ほど前のこと。
ガゼフたちはギルドで、風見の迷宮の調査依頼を受けた。
本来なら無視するような依頼だった。
だが――風見の迷宮で変異種に襲われ、逃げ帰ったパーティがいた。
それが、同じクラン《鐵の爪》の新人パーティだったのだ。
新人とはいえ、自分たちのクランの一員だ。
逃げ帰ったままではクランの評判に関わる。
そうして、実力あるガゼフたちに白羽の矢が立った。
所詮は新人の戯言。
大した魔物であるはずがない。
というのも――
ダンジョンの魔物は、階層の主より強くならない。
十階層まで何度も到達している彼らにとって、
恐れる理由など本来あるはずがなかった。
新人冒険者が襲われたのは四層あたり。
ガゼフたちは四層を中心に数日捜索したが、該当する魔物は見当たらなかった。
そこで更に深部へ。
六層の主をも討伐し、そのまま奥へ。
「そこまでは、何事もなかったんだ……」
男は頭を抱え、呻くように言った。
九層の主まで倒し、帰還する案も出たが、
捜索にかなりの時間を費やしていたこともあり、
九層の調査だけに留め、地上を目指したという。
そして――その時だった。
「あいつ、復活した六層の主を、食ってやがったんだ……」
「“あいつ”って?」
僕が尋ねかけた、その瞬間だった。
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カナリアが反応した。
ユノが何かに気づいて顔を上げる。
次の瞬間――
『クォオオオオ!!!』
凄まじい咆哮が、七階層全体に響き渡った。
男は悲鳴を上げる。
「やつだ!! やつが来た!!」
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一瞬でユノが飛び出し、リサもそれに続く。
僕とカイルは必死にその背中を追った。
そして――七階層の奥地に、それはいた。
「リサさんの嘘つきっ……!」
震える声で吐き出されたカイルの第一声は、リサへの恨み言だった。
「うっさいわね、ガキンチョ!
何事にも例外はあるのよ!!」
目の前にいたのは、洞窟狼だった。
人の頭ほどもある太い鉤爪。
鉛色の体毛。
尖った牙。
何度も戦ってきた洞窟狼――のはずが。
その大きさは、普通の個体の十倍ではきかない。
とにかく巨大な洞窟狼が、
石橋の上から僕らを見下ろしていた。




