異変の迷宮
乗合馬車の列に並ぶのは面倒だと言って、
リサが辻馬車を手配してくれたおかげで、
僕たちは急いで風見の迷宮へ向かうことができた。
出発前。
カイルのいつもの大荷物を見たリサは、
あきれ顔で言った。
「ちょっとあんた、その荷物で迷宮に入るつもり?
アイテムボックスとかないの? せめてポーターでも雇いなさいよ」
確かに、カイルの荷物は多い。
アレもコレもと詰め込んでいて、
他の冒険者と比べても明らかに“大すぎる”。
普段は持つのが当たり前になっていたから気にしたこともなかったけど……
言われてみれば、中に何が入ってるんだろう?
リサがカイルの荷物を改めると、
「あれは要らない」「これも要らない」と怒鳴りつけ、
宿に置いていくように命じた。
ちょっとしたマジックアイテム、毛布の予備、着替え、工具、
その他“いざという時”の道具が山ほど入っていたらしい。
「いや、でもさ、もし風見の迷宮の天候が急に変わったりさ、
それに目眩ましの光玉は幾らあっても良いくらいでしょ!?」
「あるにしても限度ってもんがあるでしょうが!
どんだけ逃げる気なのよ!!」
もしもの時の逃走用アイテム光玉、
人数分のポンチョ、そのほか諸々。
気にしてくれるのはありがたいけれど、
確かにここまでの量はいらないのかもしれない。
そもそも、リシアが閃光魔法を使えるから、
光玉なんて必要ない気もする。
「緊張感のかけらもねーな」
ユノが心底おかしそうに呟いていた。
***
風見の迷宮は、変種が出たという噂があるにもかかわらず、
いつも通り新人冒険者たちであふれていた。
ただ――中級冒険者の姿は以前より少ない。
「どうしてだろう?」と疑問に思った僕に、
リサがすぐ答えた。
「これが新人と中堅の違いよ」
ある程度、自分の力量を理解しているベテラン冒険者は、
無謀は犯さないし、日頃から情報収集にも余念がない。
冒険者への憧れは消えていて、
むしろ生活のために冒険者を続けている者も多い。
命あっての物種。
プライドや憧れで腹は膨れない。
だからこそ“異変が起きたかもしれない迷宮”には、
簡単には潜らないのだ。
「こんな時こそ、潜るのが面白いのになー」
相変わらず呑気なユノに、
「ユノさんのそれはそれで違うと思う」とカイルが突っ込むが、
本人はよくわかっていないのか首を傾げていた。
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入り口付近での魔物の取り合いに参加する気はなく、
僕たちは無駄な戦闘を避けながら一気に深部を目指す。
ガゼフたちの目撃情報が無いとなれば、
彼らがいるのは確実に六階層より下。
ダンジョンの入り口で、
ガゼフたちが中に入ったことだけは確認済みだ。
そして――未だに帰還していない。
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三階層の石冠の大守衛を難なく攻略し、
僕たちはさらに下層へと向かう。
正直、ユノとリサの二人は“格が違った”。
階層の主など、もはや敵ではない。
ユノが敵を引きつけている間に、
リサが大規模魔術の詠唱を完了させる。
風魔法で一気に体表を削り、
露出したコアをユノが一撃。
コアを残して倒す方法もあるそうだが、
「面倒」の一言でやめる有様だ。
僕たちとは根本的に実力が違う。
そんなことを嫌でも思い知らされた。




