姉の面影
「「「はあぁぁぁ〜〜……」」」
リベル・オルムの宿屋の一室。
僕とカイルとリサは、同時に大きなため息をついた。
調査は完全に不発。
結局、何の成果も得られなかったのだ。
肩を落とす僕らを見て、
ユノが「アイツらどうしたんだ?」と不思議そうに言う。
それに対してリシアが、
「仲良くなられたのでございましょう」
と答えているのが聞こえた。
――そういうことじゃないんだよ、と僕は心の中で突っ込んだ。
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リサは本当にいろんなことを教えてくれる。
面倒くさがるし、すぐ怒るし、言葉も辛辣なのに、
説明はめちゃくちゃ丁寧で、
僕たちが理解するまで何度でも向き合ってくれる。
ため息は多いし、文句もすごいし、
ひどい言葉を浴びせてくることもしょっちゅうなのに……
リサに怒られるたび、
リシアとは違う意味でカイルのライフゲージはゼロになる。
なのに、不思議なことに――
カイルはリサにすごく懐いていた。
本当に。
まるで飼い主を見つけた子犬みたいに。
……いや、僕もか。
これはまずい。
なんか、ねーちゃんに似てるんだよ、あの人。
口汚くて、感情的で、でもよく考えていて、
心の底から心配してくれてる。
本人はきっと心底面倒だと思ってるのだろうけど、
それでも困っている人は放っておけない――そういう人だ。
だから、今回の空振りの調査も本気で落ち込んでる。
そんな素振り一切見せないけど。
自分にも、世界にも真剣に向き合ってる。
そんなところが、生前の姉にすごく似ていて、
思わず胸が痛くなる。
ふと思い出す。
リサを見ていると思い出してしまう。
僕は、姉が大好きで、大嫌いだった。
僕にないものを全部持っていて、
驕らなくて、誰も馬鹿にしなくて。
僕なんかのために本気で怒って、泣いてくれた、そんな人だった。
両親は僕にかかりきりで、
姉はろくに褒めてもらえず、気にかけてもらえず、
自分のことは全部あとまわにされて――
今思えば、姉は本当に大変だったはずなのに、
それでもいつも僕のことを気にかけてくれていた。
僕のことを、宝物みたいに大切にしてくれた。
リサみたいによく喋るタイプではなかったけれど、
「私は私のために生きてるだけよ」と、気負いする、僕に平気な顔をして言える人だった。
――僕の根底には、確かに姉がいた。
人のために何かをするんじゃない。
自分がしたいことが、たまたま人のためになる。
誰かに善意を押し付けるんじゃなくて、
ただの“自分勝手”が、結果的に誰かの救いになることもある。
人と人の間。
思い込みと押し付けの間。
その隙間にこそ、“確かな優しさ”が宿る。
それが姉の理論だった、僕はそれを信じていた。
姉は僕を本当に心底から気遣ってくれていのだろう。
僕は姉に自由に生きてほしかった。
僕は姉を縛りたくなかった。
……でも、もし姉の理屈が正しいのだとしたら、
僕は“優しくなかった”のかもしれない。
そして今、リサを見ていると――
あの時の熱さが、胸の奥でまた静かに蘇る。
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