表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/46

穏やかな街道

数日間の連携訓練――という名のユノによるシゴキのあと、

ついにアーシェル街道の調査が始まった。


調査とはいっても、まずは街道を第三宿まで歩き、

そこで周辺を調べてリベル・オルムに戻るという基本的なものだ。


僕たちが連携訓練で倒れ伏しているあいだ、

リサは独自に街で情報を集めていたらしく、

冒険者や旅人、商人を中心に聞き込みをしていたようだ。


集まった情報によれば――


ここ数日、リベル・オルム近郊の街道で

“いるはずのない魔物”が何度も目撃されている。


鋼鉄熊アイアンベアー

鶏蛇コカトリスなど。


実際にギルドへ討伐依頼が出されており、

討伐に高位のパーティーが駆り出されていた。


僕は詳しくないが、

鋼鉄熊も鶏蛇もアーシェル周辺はおろか、

リュミナート領内にも存在しない高位の魔物で、

“いるとしたら東の大森林か、ダンジョンの下層くらいだろう”

とカイルが教えてくれた。


他にも中位の魔物の目撃・討伐報告がいくつもあり、

商人の護衛団が戦闘になったという話も複数あった。


どれも取るに足らない小規模な案件だが、

普段のアーシェル街道にはまず出ない魔物ばかりだ。


そもそもこの街道の護衛依頼は

“魔物対策”ではなく“野盗対策”がほとんどで、

魔物と戦うこと自体が想定されていない。


---


けれど――


僕たちは何事もなく第三宿に辿り着いた。


そこまでの道中に広がっていたのは、

拍子抜けするほど“いつも通り”の風景だった。


石畳の道は穏やかで、

通り過ぎる馬車も旅商人たちも、特に緊張した様子はない。


現れる魔物といえば、角兎や一眼鼠くらい。

林の奥へ入ってみても、出てくるのは森狼ぐらいだ。


どれも脅威度が低く、

新人の街道警備でも対処できる程度ばかり。


本当に、いつも通りのアーシェル街道だった。


---


第三宿に着いた僕たちは、地図を頼りに調査範囲を広げ始めた。


森の中へ分け入り、

丘陵地帯も歩き、

川沿いも調べ、

日が暮れるまで足を使って情報を集めた。


けれど――


何も出てこない。


本当に、“何も”。


傷ついた木も、

食い荒らされた死骸も、

異様な足跡も……


どれも見つからなかった。


「なんか……いつもの街道だよね」


カイルが思わずといった様子でぽつりと呟く。


「なーんも変わんねーな」


ユノが呑気に賛同し、

リサだけがなんだか苛ついた様子だった。



「リサ、どうしたの?」


僕が尋ねると、リサは頭をかきむしった。


「どうもしてないわ! 問題なんて何もない――

 何も問題“なさすぎる”のよ!!」


リサ曰く、少なくとも数日前までは確かに異変があったという。

それは決して大きな異変ではなかったが。

けれど、それで十分だった。


なのに――

今はそれが、ぴたりと消えている。


「リサさんさ……俺たちに“異変無しなんて報告するな”とか言っちゃったから、焦ってるのかな?」


カイルがそっと僕に耳打ちしてくる。


確かに、出発前にリサは言っていた。


> 森を歩いて

> 「なんもなかったでーす」

> じゃダメ。

>

> 街道を見て

> 「今日も平和でした」

> もダメ。


――今、まさにその状況になってしまっている。


「ちょっと! がきんちょ! 聞こえてるわよ!!」


「ひっ!!」


リサの怒声に、カイルが震え上がった。


「そんな低レベルな話してるんじゃないのよ、私は」


異変が“そもそも無かった”ならそれでいい。

けれどリサの調査した限り、

確実に異変は“あった。


なのに、それが今はどこにも見つからない。

それが問題なのだと。


「あんたらが見たっていう変種のゴブリン1体くらいなら、

 新人の見間違い、間抜けなガキんちょのホラ話で片付けていいわよ」


厳しいけれど、実際ユノにも言われたことだ。


しかし――

リサは続けた。


「でも今は違うのよ」


大強風級(B)や暴風級(A)の冒険者が、

実際に鋼鉄熊や鶏蛇といった猛級(四等級)の魔物を討伐している。


そして――

その素材がギルドに持ち込まれ、

“正式に”納品されている。


つまり、

異変は実際に起きていた。

 複数の高位冒険者が、それを証明している。


手がかりがあれば調査できる。

けれどこの状態では――


「じゃあ“今”何を調べろっていうの?ってことよ」


怒気ではなく、焦りと責任のこもった声だった。


「『何もなくて良かったね!』で済まない理由、分かった!?

 分かったなら、あんたらもちょっとは危機感もって、

 調査に身入れなさい!!」


リサの言うことは、何もかも正しい。


僕とカイルは思わず背筋を伸ばし、


「はいっ!!」


と返事するより他なかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ