それぞれの連携
ひらけた石畳の広場。
朝の空気は冷たく、背筋が伸びる。
ギルドの中庭にある鍛錬場。
すでにユノとリサがそこに立っていた。
ユノは腰に手を置き、“面白いものを見つけた子供”のような表情を浮かべている。
リサはというと、開口一番ため息。
「合同任務なんだから、最低限の連携は確認しておくわよ。
でないと――足手まといになるから」
相変わらず容赦ない。
カイルは姿勢を正し、ハルバードを構え、リシアは静かに頷く。
……が、リサは予想に反して魔法を放ってきたりはしなかった。
持っていた杖をポイッと地面に放り出し、代わりに羊皮紙を広げて僕たちに突きつけた。
「今回“変種ゴブリンの捜査”じゃないことは理解してるわね?」
……え?
戦わないの?鍛錬じゃないの?と思うより早く「変種ゴブリンの調査のはずじゃ……?」と疑問が浮かぶ。
僕が戸惑っていると、代わりにリシアが淡々と答えた。
「安全な街道に変種のゴブリンが出現し、治安維持を担う法国管轄の役人が、それを“問題なし”として切り捨てたことこそを調査すべきだと、リシアは思います……。
が、変種のゴブリンが、なぜそこに現れたのかも、重要ではございますね」
リサはもう一度、面倒くさそうにため息をつき――
今度は小さく笑った。
「まあ、そうね。
役員の件は、私からも言っとくわ」
言ってから。
羊皮紙を指すそこには確かに『アーシェル街道における、変異魔物と周辺の異常についての調査』という主題と共に説明が書かれていた。
ギルドからの依頼書だ。
「リシアの言ったように『なぜ安全なはずの街道に』『本来、現れるはずのない魔物が現れたのか』をまず探らなくちゃいけないわ」
リサは矢継ぎ早に説明を続けた。
「あとは、変種ゴブリンは、あんたたちの言う通り本当に単独だったのか。
銀牙狼は群れを離れたのか、
それとも“群れが食われた”のか。
魔平原で本当に異変が起きているのか。
――今回は、それらを検証する」
魔平原は帝国のさらに北東。
大森林も、その先の亜人の国も、調査なんてできる距離じゃない。
誰にでも分かることだ。
だからこそ――
推測の材料”を拾うのが今回の任務、リサは指先で僕たちを指した。
「そこまで理解できる?
変種ゴブリンをただ調べるわけじゃない。
私たちは細かな異変を探し、検証しなくちゃいけない。
そして、異変が起こる前に報告する。
目に見える分かりやすい予兆が起こって、異変が確定してからじゃ遅いの。
だから――私たちみたいなのが選ばれたわけ」
森を歩いて
「なんもなかったでーす」
じゃダメ。
街道を見て
「今日も平和でした」
もダメ。
必要なのは――
異変の根っこを探ること。
ほんの小さな手がかりでいい。
「自分の役割がわかったなら――」
リサは親指でユノを指す。
「あとは、あいつ(ユノ)に思う存分ぶん殴られてきなさい。
私はああいうの、嫌いだからパスするわ」
満足げに頷き、リサは杖を拾ってその場を去っていった。
残されたのは、僕たち三人――
いや、多分リシアはしれっと抜ける。
実際に“ぶん殴られる”のは、僕とカイルの二人だけだ。
うれしそうに笑うユノの顔。
その表情を見た瞬間、朝の空気が、ほんの少しだけ張りつめた。
***
はっきり言ってめちゃくちゃだった。
「お前たちはいつもの使えよ。オレはこれで良いや」
ユノは適当な鍛練用の木刀を一本、手に取った。
使い慣れた剣とハルバードを握る僕とカイル。
対するユノは木刀一本だけ。
実力差は分かっているが、ここまでハンデがあって大丈夫なのか……?
僕の心配は、それが杞憂で、そして僕の驕りでしかないことに、すぐに気づかされることになる。
開始そうそう、ユノはいきなり木刀をぶん投げてきた。
「うわっ――!」
慌てたカイルがそれを弾く。
……が、その瞬間。
まるで分かっていたように。
いや、分かっていたのだろう。
弾かれた木刀をそのままユノが掴み、がら空きになったカイルの背中に一撃。
「ぐっ……!」
そのままユノは加速して僕に突っ込んできた。
一瞬で距離を詰められて、顔がぐっと近づく。
ユノの綺麗な顔が目の前に迫って、
面食らった僕は体勢を崩す。
そこに、腹へ強烈な一撃。
「ッ……!」
開始数秒で、僕たち二人は地べたにひれ伏していた。
「おいおい、情けねーな、まだ始まったばっかりだぜ?」
そこから先も、ただの地獄だった。
初手に奇襲を食らい、完全に警戒した僕たちに、
今度はユノが正攻法で攻めてくる。
それなら、と構えれば――
お構いなしに剣(木刀)を投げてくる。
投げたかと思えば拾わない。
拾わずに――蹴り上げる。
蹴りや体当たりに気を取られれば、容赦なく木刀でぶん殴られる。
何度、打ちのめされたか分からない。
「これ、いつまでやるんだろ⋯⋯」
カイルは途中で半泣きになっていたし、僕も正直、気持ちは同じだった。




