ギルドからの依頼
リベル・オルムに来て、数日が経とうとしていた。
あれから僕たちは何度も風見の迷宮に挑み、
六階層――二体目の階層の主に挑めるほどの力をつけていた。
わずかな期間とはいえ、
カイルを見る周囲の目も以前とは違っていた。
大量の素材を持ち込んでも、
「そういうパーティーなのだ」と認められ、
上位魔物の素材を持ち込んでも、
驚かれることは少なくなっていた。
リベル・オルムにも、ダンジョンにも、ギルドにも慣れ始めた――
ちょうどそんな頃だった。
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ギルドの掲示板に張り紙が増え、
冒険者たちがざわついている。
「……調査隊だってよ」
「例の変種ゴブリンの件か?」
そんな声が飛び交っていた。
あのとき相手にすらされなかったゴブリンの異常や、
アーシェル街道の異変は、
徐々に“周知の事実”として認識され始めていた。
アルカナ家が正式に調査を依頼し、
その嘆願を出したのは――
ユノア・ヴェル=エルミナ、ユノだ。
そしてその報告の端に、
ほんのわずかとはいえ、僕たちの名前も載っていた。
数週間で風見の迷宮六層に到達した新人パーティーの目撃証言として。
リシアが言った通りだった。
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掲示板を眺めていると、
ユノとリサが並んで立っていた。
「よっ! 久しぶりだな」
ユノは軽く手を挙げた。
いつもの不遜な笑み――
だけど、瞳の奥が少しだけ真剣だ。
一方でリサは腕を組み、
僕たちの姿を見るなり、
「……はああああーーー……」
と、盛大なため息をついた。
(なんか……怒ってる?)
そのまま、有無を言わせぬ声で言う。
「ちょっと来なさいよ、あんた達」
カイルが思わず背筋を伸ばした。
連れて行かれたのはギルドの受付。
リサの不満げな表情と、
対応に困っている受付のお姉さんが印象的だった。
受付嬢は僕たちを見て、
少し慎重な声で言った。
「ユウさん、カイルさん、リシアさん。
あなたたちに“参加要請”が出ています」
そう言って差し出されたのは――
《変種ゴブリン調査隊・合同任務》
僕は息を呑む。
「ぼ、僕たち……に?」
「あなたたち……カイルパーティさん? にです」
受付のお姉さんが言って。
ユノは掲示板を指で示しながら続ける。
「見たろ?お前らが報告した“あのゴブリン”の件、
本当にギルドが動くことになったんだ。
――お前らも付き合え」
ユノは腕を組みいつもの調子で言った。
「受けるも受けねぇも、お前ら次第だ。
報告だけしてケツまくっても、俺は別に構わねーぜ。
……ただし、受けるなら――俺たちと“ペア”だ」
その声音は軽いのに、
どこか確信めいた強さがあった。
まるで、
僕たちが参加することを最初から疑っていない
そんな顔。
リシアの信頼とは別種の
けれど、ユノもまた、僕たちを信頼してくれている、そんな気がした。
僕は頷くつもりだったが――
もう頷く以外の選択肢はなくなっていた。
「……もちろん」
口に出した瞬間、胸の奥が軽くなる。
リシアは……やっぱり、どこか不満そうな顔をしていた。
“勝手に決めてごめん……”
と喉まで出かけたけれど、
それを言ったら、もっと情けなく見える気がした。
カイルを見れば、むしろ嬉しそうだった。
そりゃそうだ。
雲の上の実力者――
ユノとリサのパーティに“誘われた”のだから。
(最近、僕は……リシアの顔色ばかり気にしてる気がする)
もともとそうだった。
僕はリシアに守られて、導かれて、救われて――
最初の頃は仕方がなかった。
でもその後は僕のせいだ。
守るつもりだったのに、
守られてばかりで、
何を決めるにもリシアの視線を探してしまっている自分がいる。
でも――
決めることは、ちゃんと“自分で”決めないと。
リシアの後ろに隠れて守られるんじゃなくて、
隣に立って、
共に戦えるようにならなきゃいけない。
自分で選んだ道を、自分の足で歩かなきゃ。
そう思って、僕はもう一度ユノを見た。
ユノは、すでに僕たちと一緒に進む未来を
当然のように思い描いているかのように、
豪快に笑っていた。




