石冠の大守衛
リシアのテントは目立ちすぎるため、
僕たちはこの数日、カイルが用意してくれたテントで生活していた。
正直に言うと、リシアのテントのほうが良い。
広々とした室内、人数分のベッド、中央にはストーブまである。
もちろん、そんな贅沢が言える立場じゃない。
カイルのテントだって、他の冒険者の物と比べれば十分立派だし、
むしろ上等な部類に入る。
それでも――慣れないテント生活は、じわじわと僕の体力を削っていた。
---
今回の探索は“第三層の最奥”まで進み、
そこでフロアボスに挑み、
結果に関わらず一度リベル・オルムに戻ること。
それがリシアが立てた今回のアタック計画だった。
本音を言えば、
もっと深く潜る自信はあった。
けれど――急ぐ必要はない。
三層までの経験と反省を踏まえた上で次に進む方が、
確かに良い。
この「もっと行ける」という自信こそが、
あの受付のお姉さんが言っていた“新人の奢り”なのだろう。
---
セーフルームに拠点を敷き、
この数日で三層のことはほとんど把握できていた。
魔物の強さ、危険な地形、
そして他の冒険者たちですら驚くほど、
僕たちの連携は見違えるほど良くなっていた。
フロアボスの情報も把握済みで、
それを踏まえた動き方も何度も練習した。
廃墟街の端にある巨大な門。
真っ白な石造りの扉が僕たちの前にそびえる。
この先に、フロアボスがいる。
僕たちはゆっくりと門を押し開けた。
重い扉は、石がきしむ音を響かせながら開く。
その向こうにあるのは、
多数の石柱と彫刻が並ぶ広間――。
動くものも、生き物の気配も、何ひとつない。
先に来た冒険者が倒したのだろう。
もし何も知らなければ、そう思っただろう。
だが――。
「来ます。お気をつけを」
リシアの一言を合図に、
ボス戦は唐突に始まった。
石でできた祠のような彫像。
人形でも動物でもない、不気味な“無機質な塊”が、
突然、立ち上がった。
石冠の大守衛。
風見の迷宮・上層の主。
祠のような胴体の上に石の冠を戴き、
そこから石の蛇腹のような手足が伸びる。
動きは決して速くない。
だが――ひとつひとつの動きに、
岩をも砕くほどの圧倒的な力がこもっている。
硬質な見た目に反し、可動域は広い。
長い手足で縦横無尽に攻撃してくるため、
その遅さを補って余りある脅威だった。
---
カイルは盾とハルバードで攻撃をいなす。
かつては力任せに受けていた攻撃も、
今は力の流れを見極め、
盾と柄で受け流し、相手の自重を利用して動きを殺している。
この数日で、本当に見違えるほど成長していた。
まるでハルバードの本来の扱いを最初から知っていたかのような動き。
そして僕も、負けてはいられない。
唯一使える風魔法で目眩ましをし、
時にはカイルの補助に回り、
時には主攻として魔素を叩き込む。
避ける瞬間は足に風の魔素を、攻める瞬間は剣に魔素を通す。
リシアが後方から的確に指示を飛ばし、
必要に応じて小さな火球や風刃を差し込んでくれる、回復魔法をかけてくれる、とても心強い。
僕たちは――
確かに“パーティ”として動けていた。
---
激闘は、実際にはどれほどだったのかは分からない。
だが僕には、数時間に思えるほど長かった。
カイルがハルバードで敵の体力、そして体表の石を徐々に削り
縦横無尽に伸ばされる腕、足をかいくぐり
僕は魔素を纏わせた剣を、ようやく現れた魔核に叩き込む
でもそれだけじゃ足りない。
傷ついた魔核にリシアの火球が放たれ核を砕ききった。
ストーン・ウォーデンは体を維持することができなくなり崩れ落ち、
ただの瓦礫と化した。
それは僕たちが初めて、フロアボスを撃破した瞬間だった。




