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風見の迷宮

長い階段を降りた先には、

広大な空間が広がっていた。


地下迷宮と聞いて僕が想像していた、

細い坑道のようなものとはまるで違う。


そこにあったのは――

古代都市の成れの果て。


レンガ造りの建物が崩れ落ち、

瓦礫の山が連なる“地下の街”の廃墟だった。


思わず、息を呑む。


カイルが振るう大きな武器が地下で使えるのか心配していたが、

それは完全に杞憂だった。

この空間なら十分に戦える。


---


入り口付近には冒険者の姿が多く、

魔物もほとんど出てこない。


出てきても、新人冒険者が笑いながら打ち倒していく。


軽装のパーティーが賑やかに走り回り、

魔物が次々と狩られていく様子は、

まるでアミューズメントパークのアトラクションみたいだった。


――もし、あの新人講習がなかったら。


僕もきっと、

ここを“遊び場”だと勘違いしていたに違いない。


リシアは初日の方針を静かに告げた。


「戦闘は最低限に、情報収集を最優先にいたしましょう」


その声音には揺らぎがなく、

僕もカイルも従うしかなかった。


---


入口からしばらくの区間は、

新人からベテランまでさまざまな冒険者が混在している。


彼らがどう動くのか。

魔物との距離、攻撃のタイミング、

スタミナの配分、仲間への指示。


生き残るための技術が、

そこかしこに散らばっているのが分かった。


リシアは言う。


「観察こそ、最速の研鑽方法でございます」


その言葉に従い、

僕たちは“セーフルーム”と呼ばれる魔物の湧かない広場に拠点を築き、

軽い討伐と観察を繰り返した。


気がつけば、

地下三階層まであっさりと到達していた。


本音を言えば、

もっと奥へ進んでみたかった。


けれど、カイルが感心したように言う。


「リシアさん、本当にすごいね……」


その一言で、あの講習のお姉さんを思い出す。


先輩冒険者の言葉を軽んじる奴から死ぬ


なんとなくそんな言葉が頭をよぎった。


今は自分を鍛える時なんだ。




***


「風見の迷宮の生存率ってさ、実はそんなに高くないんだよ」


意外な言葉に、思わず耳を疑った。


風見の迷宮は初心者向け。

浅くて、出る魔物も弱い。

毒や魔法を使う敵も少ない。


――それが一般的な認識だ。


だからこそ、

低位から中下位の冒険者がこぞって潜る。


挑戦者数は断トツで多い。


その結果――。


上空から石蝙蝠ストーンバットが飛びかかり、

カイルはそれを盾で弾き返した。


落下してきた蝙蝠を僕は難なく斬り伏せる。


ここ数日の訓練のおかげで、

僕たちはこの程度なら問題なく対処できるようになっていた。


ハルバードを構え直しながら、

カイルは続ける。


「風見の迷宮はさ、

 三階層ごとにセーフルームとフロアボスがいるんだ」


風見の迷宮には

二体の階層のフロアボス)

一体の迷宮のダンジョンボス)

が存在する。


三階層ごとにセーフルームがあり、

その奥にフロアボスがいる構造だ。


つまり――

モンスターが現れるのは九階層まで。


一見、安全に見えるその構造が、

実は“罠”でもあった。


「ボスはね、一定期間で復活するんだよ。

 逆に言えば、一定期間“いない”ってこと」


カイルは石蝙蝠の群れを薙ぎ払いながら言う。


「だから……

 行けちゃうんだよ、新人冒険者でも。深部に」


運がよければ、

道中の敵が少なく、

ボスもいないタイミングで、

新人が深部に、下手をすれば九階層まで到達してしまう。


しかし――。


「実力もないまま下に潜っちゃってさ、

 セーフルームにもどれなくなる。

 その上、ボスまで復活して挟まれたら……

 もうどうにもならない」


カイルの声が低くなる。


「中級冒険者だって同じだよ。

 簡単な迷宮だと思って油断すれば、普通に死ぬ。


 風見の迷宮はさ――

 一番簡単で、一番人を殺してきた迷宮なんだ」


石蝙蝠の群れは、

あらかた片付いていた。


「お見事です、お二人とも」


リシアが静かに言う。


そして僕たちは、

翌日フロアボスに挑むことを決め、

早めにセーフルームへ引き上げた。



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