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新人講習

塔の入り口は門というよりも、

鉄格子のついた通用口のような質素な造りだった。


有事の際はここも埋められて、出入り口は風見の迷宮の上に建てられた塔の屋上だけになるのだとか。



そこへ向かう途中、

白い制服のギルド職員が大声を張り上げていた。


「はい、そこの人たち、新人さんたち! 初潜りですね?

 中に入る前に《ダンジョン初心者講習》を受けてくださーい!」


カイルが苦笑して肩をすくめる。


「ユウさんたちは初めてだから、これ受けないといけないんだね。

 ほら、行こう」


促されて、僕とリシアも列に並ぶ。

カイルは慣れた様子で説明してくれた。

風見の迷宮の新人講習は“聞くべき”なのだと。


---


「ほい、全員揃った? じゃあ始めるよ〜!」


講師役のお姉さんは、声も態度もやけに軽い。

なんか、前世の歌のお姉さんを思い出す。


けれど体つきは鍛え上げられていて、

腰には使い込まれたショートソードが“抜き身”のまま吊られていた。


「まず最初に!

 ダンジョンは観光名所じゃありません!

 中の魔物は全部ほんもの!

 死んでも自己責任でーす!」


新人たちから笑いが漏れたが、

お姉さんは一緒に笑う、けれどその目は一切笑っていなかった。


「笑ってもいいけどね?

 笑ったやつから死ぬよ?」


……一瞬で静まり返った。


---


「ルールその1!

 絶対にひとりで行動しない!」


お姉さんは背後の立て看板を指しながら続ける。


「格好つけてソロ気取りの新人も居たりするけど、

 単独なんか無理だから、とっとと帰ること

 仲間とはぐれたら焦らず、止まらず、帰還すること

 ダンジョンはそんなに甘くありません

 それからダンジョンで死んだら、死体は残らないから、仲間とはぐれて死んだら骨も残らないよ!」


新人の一人が手を挙げた。


「……なんで死体が残らないんですか?」


「難しいこと考えなくていいの!

 “そういうもの”なんだよ。

 死んだあとのこと気にするより、

 死なないように気をつけること!

 余計なことを気にかけて足元が疎かになったら死ぬよ」


---


「その2!

 《セーフルーム》を見つけたら必ず休む!」


「セーフルーム……?」


「そこだけ“魔物が絶対に湧かない場所”のこと!

 ベテランがテント張ってるから、すぐ分かるよ。

 いい? 新人がよくやるのはコレ。


 “俺は大丈夫、もっといける。周りは軟弱”

 ――そう思って休まず突っ込んで、はい死亡!」


講師の声は少し強くなった。


「ベテランでも休むのが普通なの!

 セーフルーム無視した新人から死ぬんだから、忘れないで!」


---


「その3!

 “帰りの体力”を絶対に残す!」


「最下層に行くことばっかり考えて力尽きたら……

 その瞬間に全部終わりだよ!

 特に風見の迷宮は初心者向けと言われてる。

 走破できて当然――なんて思わないこと!

 そして必要以上に深く潜らない!

 実力以上の深部にたまたま行けちゃう新人がたまにいるけど、帰り道で死ぬからね!」


めっちゃ、死ぬな風見の迷宮。


---


「その4!

 嫌な空気を感じたら即、帰れ!


 魔物の気配が急に変わることがある。

 体調が急に変わることがある。

 状況が急に変わることがある。


 “今日はマズい”って感じたら、即撤退!

 運が悪い日は――本当に悪い!


 自分の感覚を信じて即帰れ。

 明日アタックすれば良い

 無理すれば死ぬからね!」


---


「その5!

 生きて帰れば冒険者。

 死んだら、死体、ただの死体、骨が残ればめっけ物!」


---


「最後に!」


お姉さんは新人たちをぐるりと見渡した。


「風見の迷宮を選んだ君たちは賢い!

 調子乗って最初から高難易度に行っちゃう、

 自意識過剰で頭の悪い新人共とは違う!


 だからご褒美に――良いもの見せてあげる!」


そう言って手招きした。


お姉さんは前に出ると、

ゆっくりとロングスカートの裾をつまんだ。

そして、それを引き上げていく。


えっ?


新人たちがどよめき固まる中――

彼女は躊躇いなく上までたくし上げた。


白い太腿が現れ、そして――


左脚は、腿から先がなかった。

抜き身のショートソードが義足に当たって硬質な音を立てる。


「いい? ダンジョンは遊びじゃない。

 手を失っても、足を失っても――

 這ってでも戻れ。


 生きていれば、その先がある」


指し棒を操る右腕とは裏腹に、

左腕は一度も動かない。

右手もまた、三本の指しかなかった。


僕は、馬車ではしゃいでいた自分を

こころの中でぶん殴った。



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