二匹の狂犬
長身の黒髪の女性がユノだ。
片手斧とショートソードを使う二刀流の使い手で、
動きやすそうな革鎧を身に着けた前衛。
一方、赤毛の小柄な少女がリサ。
魔術師で、腰には無数の革袋やポーチを下げ、
耳や腕にはマジックアイテムだろう、
ピアスやバングル、ブレスレット。
首元にも、いくつかのペンダントが揺れていた。
どこまでも対照的な二人は、
リベル・オルムを拠点とする冒険者パーティーで、
わずか二年足らずの間に
大強風級(B級)まで昇級したという、
まさに期待の大型新人らしかった。
クランにも所属せず、
単独パーティーでここまで登りつめるのは、
異例中の異例――とはカイルの談だ。
それだけで、
彼女たちがどれほどの実力者かが分かる。
そしてカイルによると、
ユノは黒い狂犬、
リサは赤い狂犬と呼ばれているらしい。
二つ名の理由は……まあ、
想像に難くない。
ベテラン冒険者たちが、
尻尾を巻いて逃げていったのも納得だった。
それにしても――だ。
どうやらユノは、
カイルを探してこの酒場へ来たらしい。
「そこのガキンチョを見かけたら、
急に走り出してね。
まったく参ったわよ」
とは、リサの談。
自分より小柄なリサに
「ガキンチョ」扱いされ、
カイルは、
「ガキンチョって……」
とぼやいているが、
言い返すほどの勇気はないらしい。
「カイルって言ったか?
お前、変異種の渡りを見たんだってな?」
ユノの言葉に、
カイルの顔が歪む。
続けざまに、
リサが呆れた顔で言った。
「あんた、まさかそんな与太話を聞くために
騒ぎ起こしたの?!」
“与太話”と言われ、
カイルは何か言おうとしたが、
ぐっと押し黙った。
「変なゴブリンを見たのは本当です。
ユノとリサが信じてくれるなら、
話しますが」
僕が割って入ると、
「ユノでいい」
「右に同じ。リサで。
ついでに、その堅苦しい敬語もやめて。
聞いてるだけで肩がこる」
二人同時に、そう言われた。
「じゃあ……ユノ、リサ。
僕たちの話を聞いてくれるってことで、いいのかな?」
改めて尋ねると、
二人はしっかりと頷いた。
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「鉛色で、物理攻撃が効かない、
三メートル超えのゴブリン……しかも群れなし、ね」
僕の話を聞き終えたリサは、
ふう、と息をついた。
ちゃんと聞いてはくれたが、
にわかには信じがたい――
そんな表情だ。
「アーシェル街道での不穏な噂、
最近いくつかあったろ?」
ユノが言う。
「何か良くないことの前触れなんじゃねえかって、
俺は思ってる。
それに、何日か前に
銀牙狼が
アーシェル街道に出ただろ?」
「あー、あの“はぐれ銀牙狼”ね」
銀牙狼は、
森狼とは比べ物にならないほど巨大な、
狼型の魔獣だ。
群れで現れれば、
暴風級(A級)の依頼が出されることもある、
大物中の大物。
二週間ほど前、
ユノとリサの二人は、
その銀牙狼の討伐依頼を受けたらしい。
僕たちが第五宿で聞いた
「本来いるはずのない魔獣が出た」という噂は、
その銀牙狼のことだった。
討伐自体は、問題なく成功した。
銀牙狼は群れで長距離を移動する習性があるため、
はぐれが迷い込んだとしても不思議ではない――
表向きは、そう判断された。
だが、
ユノは違う考えを持っていた。
「あいつ、たぶん何かから逃げてた。
でも怯えてるって感じじゃなくて……
どっちかってーと、
“ムカついてる”、キレてる感じだったな」
「なに、そのふわっとした感想?
そりゃあ、あんたに
あれだけ追い回されたら、
獣だって怒るわよ」
「そうじゃねーよ。
あいつ、“はぐれ”じゃなくて、
群れごとこっちに逃げてきたんじゃねえか、
って話だ」
「じゃあ、残りの狼どもは
どこ行ったっていうのよ?!」
そこまで言って、
リサは、はっと息を呑んだ。
僕も、
ユノが言おうとしていることが分かった。
もし――
彼女が、僕たちの話を信じてくれたのなら。
答えは、一つだ。
「おそらく……
あのゴブリンに、
食べられてしまったのでしょうね」
それまで黙っていたリシアが、
静かに口を開いた。
銀牙狼は、
ダンジョン内部、
あるいはリベル・オルム東側の山脈を越えた
大森林に生息している。
その大森林の先に広がるのが――
“魔の平原”。
常軌を逸した魔物たちが跋扈する、
人が踏み入れてはならない禁足地だと、
カイルが補足する。
僕は、思わず青ざめた。
(……めちゃくちゃ、足踏み入れてたな……)
ユノの見解は、こうだった。
――魔の平原で、
何かが起きているのかもしれない。
それが、
街道へと“異常”を溢れさせているのではないか。
見慣れないゴブリンは、
魔の平原から追い立てられたか、
あるいは、何らかの理由で
こちら側へ進出してきている。
ユノは、
その可能性を危惧していた。




