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酒場にて

宿に併設された酒場に着き、僕たちは言われた通りに席取りをした。

宿場町の小さなお店だと、座った瞬間、有無を言わせず麦酒とパン、干し肉やソーセージ、ジャガイモみたいなものが出されることもあったけど――


ここではちゃんと食べるものを選べるようだった。


連れが一人あとから来ることを告げて、とりあえず飲み物だけ頼んでカイルを待つ。


やった、アルコール以外の飲み物がある。


飲水事情のせいか、店で提供される飲み物はぶどう酒とか麦酒とか蒸留酒とか、とにかく酒がほとんどで――まあ、ここは酒場だから当たり前なんだけど、他の店も似たようなもので。


あまりお酒が得意でない僕は辟易していた。


僕がご満悦でぶどうジュースを注文し、飲んでいると、しばらくしてずいぶんくたびれた様子のカイルが肩を落としながら酒場に現れた。


「はぁー……」


椅子に座るなり、深いため息をつく。


「わかってたんだけどさ! 信じてもらえないって」


あのゴブリン――渡りのゴブリンを倒したあと、僕たちは第四宿の役場で経緯の説明と報告をした。

けれど取り合ってもらえなかった。


災害級魔獣とされるゴブリンロードでさえ二メートルを少し超える程度。

群れも作らず単独で三メートルを超え、ハルバードの刃すら通さず、見たこともない体色をしたゴブリンが街道沿いに現れるなんて ありえない――役場ではそういう扱いだった。


だって、そこまで成長する前に退治されるだろうし、

それでなくてもある程度成長した時点で討伐依頼が出されるはずだ。

少なくとも“目撃情報すらない”というのはおかしい――というのが役人に言われた言葉だった。


あの個体は明らかに異常だったと思う。

けれど、骨も残さず焼き尽くしてしまったから、証明する術もない。


別にリシアを責めるつもりはない。

あれは、それくらいヤバい代物だった。


当のリシアは、特に気にするでもなく手早く注文を済ませている。


ちょうどリシアが注文を終えた、その時だった。


酒場の入り口の方から、ひときわ大きな笑い声が聞こえ、

大柄な男たちが酒場の中に入ってきた。


「しっかし傑作だったな、カイルの野郎!

 今度は渡りの変種のゴブリンを討伐したときたもんだ!」


「しかも三メートル超えだとよ!どこの世界にそんなゴブリンがいるってんだよ!」


「素材は燃えちゃってないんだ、だと? 嘘もあそこまで来たら立派なもんよ!」


下品な笑い声。

話の内容は、さきほどのギルドでのカイルの報告のことだとすぐに分かった。


男たちは席につくと、すぐに麦酒を注文し、

そしてこちらに気がつくと顔を見合わせた。


「おやおやおや。誰かと思えば、ゴブリン討伐の英雄様じゃねーか?」


心底バカにしたような声。

リーダーらしき男がそう言うと、取り巻きと周囲の客たちが笑った。


男は立ち上がり、カイルに近づいてくる。


「優男に、女魔術師か……。

 今度はどうやってだまくらかしたんだ? カイル坊っちゃんよ?」


男はカイルの顔見知りらしかった。

カイルはぐっと歯を食いしばり、何も言わなかった。


以前、カイルは言っていた――


クラン同士の揉め事は御法度だと。


カイルは自分の所属する《暁の盾》のことを誇りに思っている。

だから、ぐっとこらえているのだ。


押し黙るカイルに、男はここぞとばかりに下卑た笑いを浮かべた。


「なるほど、これだけべっぴんの嬢ちゃんだ。

 ゴブリンに食わせてる間に後ろからブスリってか?

 こりゃとんだ“盾”を手に入れたもんだな!」


どこまでも下品な挑発に、僕の方が限界だった。


立ち上がろうとする僕に、カイルは「……ユウさん、ごめん」と、絞り出すように言った。


僕が息を整え、お金だけ払って席を立とうとした――

まさにその時だった。


後方から低い声が、空気を切り裂いた。


「――最近の冒険者の間じゃ、後輩いじめが流行ってんのか?」


その声が響いただけで、

酒場の空気が一瞬で変わった。


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