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自由都市リベル・オルム

その後の道のりは順調だった。

けれどカイルはずっと何かを考えているようで、

いつもの調子で話すことがほとんどなかった。


――ムードメーカーのカイルが喋らないと、

こんなにも道中って静かになるんだな。


第五宿へ引き返すべきか、という話も出た。

だが僕らは予定通り、前へ進むことを選んだ。


報告だけなら次の宿場町でも事足りる。

あんなのが複数体いるとは考えられないし、それに街道沿いの林は平穏を取り戻していて、リシアも違和感がないと言っていた。


あんなとんでもない魔法を見た後だ。


彼女が言うなら大丈夫だろうと僕は思った。

たぶんカイルも同じだ。


---

かっこ

夜になり、

野宿の準備を整え始めたころ――


リシアが、アイテムボックスから

“3人が悠々と寝られるサイズのテント”を引っ張り出した。


その瞬間、やっとカイルは元の調子に戻ったようで、

呆れを隠しきれない声を上げた。


曰く、テントには強力な魔除けの結界と、環境調節魔術が付与されているらしかった。


「いや、まじ、何もんだよリシアさん!?」


カイルらしいツッコミだった。

あれだけの怪物と対峙したあとで、

こんなふうに笑えるまで回復したのは本当に良かった。


そして、“よくぞ聞いてくれた”と僕も内心同じことを思っていたけれど、

今さら聞けるわけもない。

まあ、聞いたところで――


「リシアはリシアです」


こうなるよね。


そっけなく答え、その一言で終わってしまった。


「リシアらしい」


僕はハハと笑って、それ以上の詮索はやめにした。


考えても意味のないことは、考えない。

そう決めた。


けれどひとつだけ、胸の奥に思ったことがある。


――いつか、リシアの後ろに隠れなくて済むくらいには、強くならないといけない、と。


逃げてばかりじゃ生前の僕と同じで、

何も変わらない。


“自分の力で、誰かを守れるように”。


焚き火の光を眺めながら、

僕は静かに拳を握った。


***


リベル・オルムはとにかく、でかくてすごかった。


何がって?

石造りの巨大な門もそうだし、見上げるような城壁もそうだった。

遠くに見える大きな塔は古代ダンジョンの入り口らしく、それもなんせデカい、何もかもが圧巻だ。


街の中の景色――喧噪や露店の密集ぶり――

すべてが力に満ちていた。


現代人の僕からしてもアーシェルも大きな街に見えたし、

第五宿やほかの宿場町も立派だったけれど……

ここは、その全部が“比較にならない”。


商店からの匂い、鍛冶屋の打音、道端で芸を披露する人たち。

世界中から集まる冒険者、商人、旅人、大道芸人、人種も職業もバラバラ。

獣のような人や、エルフだろうか?尖った耳の人、ホビットみたいなおじさんが連れている獣は象みたいなサイズのバクみたいな生き物で

それから、道端で口から火を吐いて鳥や蝶などに変化させるパフォーマンスをしている人もいる。

怒号と笑い声。


これまで見てきた街とは、規模が違う。


まさに“自由都市”だ。


「なんだこれ……なんだろこれ?」


僕はぽかんと口を開け、見るものすべてに興味を惹かれる。


「ユウさん……ユウさん!」


あたりをキョロキョロ、あっちへふらふら、こっちへふらふら。

何か見つけるたびにカイルに尋ねる僕に、

カイルが釘を刺すように言う。


「治安は意外と良い方だけど、

 あんま田舎者丸出しだと狙われるから気をつけてね」


リシアは無言で僕らの後ろを歩いていたけれど、その目はどこか生暖かく優しかった。

仕方ないだろ、楽しいんだから。


---


まず宿を取り、荷物を預けてから、

僕たちはギルド本部へ向かった。


ギルド本部は街の中心にそびえる巨大な石造りの建物で、

その大きさはアーシェルの支部とは比べものにならない。


お城みたいだ、と僕は思った。


中に入ると、外以上に騒がしかった。


依頼票を奪い合って揉める者、それをなだめる職員たち。

筋骨隆々の戦士が豪快に笑っている。

素材買取の窓口にはベテラン冒険者たちが並んでいた。


アーシェルと違って、あくまでここは“事務的な手続きをする場所”らしく、酒場はなかった。


奥の方には大型魔獣の解体や引き取りを行う場所や資料室、鍛錬所。

二階には大手クランやパーティにだけ貸される個室や宿泊所などもあるらしい。


とにかく、デカくて騒がしい。


僕たちはまっすぐカウンターに向かった。


なんだか周りから妙に注目されている気がしたけれど、

リシアと一緒にいると大体そうなるので、

最近ではもう慣れてしまった。


まずは冒険者としての本登録を依頼する。


等級は、

薫風級くんぷう疾風級しっぶう雄風級ゆうふう強風級きょうふう

疾強風級しっきょうふう大強風級だいきょうふう暴風級ぼうふう烈風級れっぷう

そして最上位の颶風級ぐふう――

全部で十段階。


AとかBとか、銀等級とか金等級とかじゃなくて“風”?

覚えづらいから、頭のなかで、生前の世界でお馴染みの分かりやすいアルファベット式の階級に変換する。


動揺している僕に、受付嬢が教えてくれた。


冒険者は自然と自由を尊ぶ。

六神の中でも風を司る神・オルメアを信仰する者が多く、

だから等級も自然と“風”にちなんだものになったのだ、と。



(最初は薫風級ってことは……Gランク、最下位ってことか)


本登録には簡単な試験があると聞いていたけど、

仮登録のときの課題――

角兎と薬草の納品、それと読み書き――

あれがそのまま試験だったらしい。


他の地域から来る冒険者志望はともかく、

アーシェルで仮登録してリベル・オルムを目指す冒険者志望者はかなりの数がいる。

リベル・オルムの冒険者ギルドは年中人手不足で、

アーシェルの段階である程度ふるい落とすのが、もう“慣習”になっているそうだ。


なんか、上級冒険者が出てきて「実力を見てやろう」とか、

水晶で魔力量を測ったりスキル鑑定したり――

そういう派手な儀式があるんじゃないの? と聞いたら、


「そういうのは自費でどうぞ」


と、至極まっとうな返答が返ってきた。


確かに、上級冒険者がそんなに暇なわけないし、

ギルドがわざわざ個々のスキルを調べてくれる義理もない。


こうして僕とリシアは晴れて薫風級(G級)冒険者となり、

皮でできた階級証を受け取ってギルドを出た。


カイルだけは

「あの街道での件を報告しないと」と言って残った。


僕たちも付き添おうとしたけれど、


「先に夕食の席取りでもしてて」


と押し切られ、

結局ギルドから追い出される形になったのだった。



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