ハロウィンの喧騒と異物
風の音が、やけに近くに聞こえた。
まぶたを開けると、木々の隙間から光が斜めに差し込んでいた。
……ここ、どこだ?
僕は林――いや、森? の中で目を覚ました。
さっきまで僕は繁華街にいて……。
思い出した瞬間、嫌な汗がジトリと流れた。
慌てて腹のあたりを見る。けれど、何もない。
何もないというか――なんだ、この服。
僕は自分が着ている見慣れない服をつまんだ。
着慣れた病院服でも、Tシャツでもない。
麻……? ごわついていて、やけにしっかりとした手触り。
木々の葉が風にざわめく。
立ち並ぶ幹は太く高く、そこは公園などというものではなく――
「……深い森だよな」
思わず呟いた。
都内にこんな森があっただろうか。
頭を巡らせるほどに、血の気が引いていく。
もしかして――揉めた相手が反社的な連中で、森の奥に連れ去られて……埋められるとか?
慌てて辺りを見渡すが、それらしい車も、人の影も見当たらない。
──本当に、どこなんだここ。
僕はふらつきながら歩き出した。
***
昨日、僕は街に出かけた。
ハロウィンで浮かれた街には色んな人たちが歩いていて。
歩くだけで苦しかった。
ただ歩くだけなのに、息が切れた。
ハロウィンの飾りで賑わう通りを仮装した人々が笑いながら行き交う。
その中では僕だけがまるで異世界に迷い込んだ異物みたいだった。
周囲の喧騒とは裏腹に、僕の心は平坦で「世界から拒絶されている」ように感じられた。
小さな頃からずっと身体が弱かった。
遠足、運動会、家族旅行──行事のたびに倒れて熱を出した。
それでも父も母も年の離れた姉も、誰ひとり僕を責めなかった。
クラスメートも、友達も、優しかった。
「大丈夫だよ」と言ってくれた。
「無理しなくていいよ」と言ってくれた。
「君のペースで大丈夫」と励ましてくれた。
その言葉は本来なら救いのはずだった。
……だけれども。
その優しさが、かえって僕の胸に突き刺さった。
僕には眩しすぎて、抱えきれなくて、
“情けない自分” をそのたびに突きつけられているようで、苦しかった。
せめて普通になりたい──そう思って努力してもそのたび、やっぱり僕は熱を出して寝込み、また周囲に迷惑をかけた。
それでもどうにかこうにか進学し、大学を卒業し、
ようやく「人並み」と言える就職先が決まった矢先だった。
「ガンですね」
主治医の声はどこまでも静かで、僕の思い込みかもしれないけど無機質にすら聞こえた。
治療方針、これからの生活、余命のこと、これからのことを淡々と告げられた。
姉は泣いていたと思う。
両親は目に見えて困惑していたけれど、きっとたくさん話し合ったのだろう、考えたのだろう
次の日にはしっかりと僕の目を見て「大丈夫」だと言ってくれた。いつもと同じように。
泣き腫らしたであろう母の目が、よく寝れなかったのだろう父の顔が印象的だった。
なんて優しいんだろう、なんて強いんだろう
なんて頼もしいんだろう
でも僕は、だけど僕は──悲しみよりも、嬉しさよりも、ありがたさよりも
ただただ“情けなさ”でいっぱいだった。
病気の自分も、弱い自分も、
未来をつくりだせない自分も、
全部、全部、惨めで弱くて情けなくて最悪だった。
優しさを素直に受け入れられない、両親の決意に感謝すらできない自分が
格好悪くて
嫌だった
だから。
投薬治療の合間の仮退院の日、
僕は誰にも言わず街に出た。
家族にも、病室で仲良くなったあの子にも告げず……
鬱屈した気持ちをどうにかしたくて




