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大部屋の片隅で2(カイル視点)

カイルは、アーシェル南門の外れにある安宿の大部屋で、あいからず

ぼんやりと天井を見つめていた。


体の痛みはほとんど引いた。

角兎に蹴られた脇腹も、毒キノコによるお腹の不調も、

もう笑い話にできるくらいには回復している。


問題は――身体じゃなかった。


(……どう顔向けすりゃ、いいんだよ……)


あの日、

ユウとリシアの実力をギルドで聞いてしまった。


ステム南端の大型角兎を大量に討伐した、どころか彼らはラクナ山地を越えてきた。

オオムカデやアイアンタランチュラを倒し、その素材を持ち込んだらしい。

極めつけはモアの秘石。


モアは中型のトカゲの魔物で、水魔法を放つ。

多くの魔物は、アイアンタランチュラなら糸腺で糸を作り吐き、

オオムカデなら毒腺で毒を作って牙から噴く。


だがモアは違う。

体内に特殊な鉱石を持っていて、それによって魔法を発動する。

その威力は計り知れない。


上位冒険者ならまだしも――

カイルなんかはステム南端の角兎ですら、死を覚悟するレベルだ。


(そりゃ……ユウさんたちが本気で怒ってなかったわけだよな……)


本当に実力がある冒険者だからこそ、

何かあっても自分たちで対処できるからこそ、

カイルの“お遊び”にも付き合えたのだ。


胸が、きゅう、と痛む。


カイルは拳を握りしめた。


(俺は……何やってんだろ)


暁の盾のクランリーダー・エルネストから贈られたハルバード。

カイルはその柄を何度も撫でた。


“いつか、お前が振るうべき武器になる”


そう言われて渡された、超重量の武器。

持つことはできる。振るうこともできる。

でも、それだけ。


(同じじゃないか……)


人より重いものを持ち上げられる。

人より力がある。

そんなユニークスキルを持ったカイルに、エルネストは目をかけてくれた。

だからクランに誘ってくれた。


でも結局、未熟なカイルはクランのお荷物でしかなかった。


クランで留守番しながら自己鍛錬に明け暮れる日々が嫌で、

何か役に立ちたい一心でこのアーシェルに来た。


色んな新人や、一緒に組めそうな人に片っ端から声をかけた。

だが、ずっと失敗続きだった。


そもそも――

誰もカイルに見向きもしない。


力が強いだけの子供なんて、

別に大した戦力じゃない。

荷物持ちぐらいなら雇ってやるよ、と

何度笑われたことか。


そして、ようやく見つけた“やっていけそうな人たち”。


ユウはカイルの言葉を信じて、

角兎の前で両手を広げて叫んでくれた。

今回はうまくいかなかったね、と笑ってくれた。


キノコのことも、薬草のことも、

ユウはカイルを責めるどころか気遣ってくれた。

そして、笑ってくれた。


ユウたちに会ったら謝って、それからパーティを組んでもらう。

そんな希望を抱いた矢先に――

あの事実を知ってしまった。


もう、ギルドにも顔を出せない。


気まずいとか、恥ずかしいとか、

そんな浅い理由じゃない。


(……何浮かれてたんだ、オレ)


自分なんかがユウたちとパーティ組めるはずがない。

暁の盾と同じように迷惑をかけるだけだ。


あの日、

リシアに淡々と責められたあと、

リシアの後ろで気まずそうに笑ったユウが、

脳裏に浮かぶ。


ユウはなんだか他の冒険者とは違っていて、彼となら良いパーティーになれたんじゃないか。

そう思ってしまった自分が恥ずかしかった。

カイルは布団をかぶって唸った。


「……うあああああ……」


大部屋の他の客から「うるせえ!」と怒鳴られて、

慌てて口を押さえる。


(……明日は……せめてギルドに顔出すか……?

 せめて謝らないといけない)


堂々巡りだ。


その夜、カイルは

ユウに会いたいけれど、会わせる顔がない。

という矛盾を抱えたまま――

静かに眠りについた。


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