僕の決断
翌日も、その翌々日も、僕はギルドに顔を出したが、カイルの姿はなかった。
冒険者見習いでもできる簡単な仕事、
草原での薬草摘み、街の外壁修理、スライム相手の溝浚い――
そういった仕事をこなしながら日々を過ごす。
一日が終わると、僕たちは常宿にしている、
カイルから紹介された宿に戻ってきていた。
明日は少し聞き込みして、カイルのことを探してみよう。
そう思いながら、リシアと夕食を終える。
リシアによれば、僕たちが食べたあのキノコは確かに有毒だが、
大した毒ではなく、むしろ下剤代わりに使われたり、
少量なら腸内環境を整える効果もあるらしかった。
カイルの知識が全部間違っていたわけではない。
それを知ると、彼の症状も軽症で済んだはずだと、少し安心した。
そういえば、と僕は思い出す。
「あのときリシア、僕たちと一緒にキノコ食べてたよね?」
そう、僕とカイルだけじゃなく、
リシアも一緒に昼食のキノコスープを食べていたのだ。
だけど僕ら二人と違って、リシアはぜんぜん平気そうだった。
僕の質問に、リシアはいつもの調子で答える。
「リシアは、大抵の毒なら食べても支障ございません」
まるで当然のように。
……なんか、そんな気はしてたよ。
規格外の新人なんて言われているけど、
どう考えても規格外なのはリシアだけで、
僕はその“恩恵”で凄いように見えているだけだ。
「まだ、カイル様を探すおつもりですか?」
今度は逆にリシアが尋ねてきた。
仮登録を済ませ、旅の準備も終わり、
自由都市リベル・オルムへ向かう予定だった。
だが――もう準備が終わって二日が経とうとしていた。
「カイルにもう一度会いたいんだ。それから……リシア、相談なんだけど」
僕は思い切って言った。
「ぼく、彼に旅の案内を頼もうと思う」
僕は無知だし、リシアは万能だけど俗世には疎い。
この間の納品のときみたいに、不用意に素材を出したり、
この世界の仕組みに僕がついていけなかったり。
今は信頼できるギルドマスターがいて助かっているけれど、
この先、信用できる人にいつ出会えるかは分からない。
それに――
カイルは自由都市を拠点とする《暁の盾》のメンバー。
頼めば自由都市まで案内してくれるかもしれない。
あのときの、冷たい表情のリシアが頭をよぎったが――
リシアの答えは、拍子抜けするほどあっさりしていた。
「ユウがお決めになったなら、リシアに反対する理由はございません」
その声音は静かで、けれど確かな“肯定”があった。
こうして、
明日カイルを探し、遅くとも明後日には自由都市を目指す
ということで、その日は休むことにした。




