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隻眼のギルドマスター

ギルドの奥の部屋に通されて。


隻眼の受付の男――ラーガイルさんは、このギルドのギルドマスターだった。

そんな偉い人とは知らず、僕は思わず縮こまる。


「そんな萎縮するなよ」


と言いながら、お茶を出してくれる。

とうもろこしのような香りのするお茶は、どこかホッとする味だった。


「膝に矢を受けて辞めちまったが、俺もこれでも昔はそこそこ名の通った冒険者だったんだぜ」


はて? 膝に矢、とは言うけれど……

見たところ膝が悪そうには見えなかった。

むしろ隻眼のほうが気になる。


そう思っている僕の耳もとで、リシアが小声で補足してくる。


「“結婚なさった”ということです」


……膝に矢を受けて結婚?

どんなデンジャーな奥さんだよ、とトンチンカンなことを考えていると、それを察してか

さらにリシアが捕捉する。


「地に足をつけることの揶揄です」


ああ、なるほど。

と納得してリシアに目を向けると、

なんだか僕を愛おしそうに見ている……気がした。

表情はいつもと変わらないのに。


(無知ですみませんね……)


と卑屈になりながら、気持ちを切り替える。

さて、本題だ。


冒険者といえど、みんなが品行方正なわけではない。

むしろ荒くれ者のほうが多い。


ラーガイルさんは、そんな世界での“基本”を教えてくれた。


「目立つな、とは言わねぇが……もっと考えて行動しろって話よ」


確かに、今日の納品方法は目立ちすぎた。


「お前さんたちなら多少の問題も解決できるだろう。

 だが、面倒事は少ないに越したことはない」


今度から――


・高価な素材は受付で事前に相談すること

・分からないことは必ず確認すること


そして、最後に。


「……カイルのことは、済まなかったな。

 悪く思わないでやってほしい」


ラーガイルさんは続ける。

どうやら先日のことは、彼の耳にも入っているらしかった。


「命に関わることの多い稼業だ。

 あいつの失敗をなかったことにしろとは言わねぇ。

 止めなかった俺も同罪だ」


それでも、と言葉を継ぐ。


「カイルは、同輩や後輩を本気で大事にしてる。

 ケガはさせても、それ以上の事態になりゃ……

 身を挺してでも守るだろうよ」


どこか誇らしげで、優しい声音だった。


「お互いにとって良い経験になると思って止めなかった。

 ……すまねぇな」


ラーガイルさんは、深々と頭を下げた。


それだけで、話は終わりだった。


怒られるとか、面倒事になるんじゃないかと

ずっと不安にしていた僕は、拍子抜けしてしまった。


でも――


なんだか、カイルのことも、

このアーシェルの冒険者ギルドのことも、

少し好きになった気がした。


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