表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/45

教えて貰うこと、学ぶべきこと

翌日、ギルドに顔を出したが、カイルの姿は見当たらなかった。

昨日の今日だし、きっと宿で寝込んでいるのだろう。


(リシアが治癒術使ってくれたらなー……)


なんて性懲りもなく考えてしまうけど、いや違う、そうじゃない。

僕は慌てて思い直した。


昨日の夜考えていた。

すでに角兎はたくさん狩ってアイテムボックスに入れてあるし、

道中、リシアに教えてもらいながら薬草だってちゃんと摘んでいた。


そう、摘んでいたんだ。


考えればリシアは薬草の見分け方も、角兎の習性も、

色んなことを丁寧に教えてくれていた。


なんかカイルが上手に説明してくれるから、

初めて聞いたような気になってしまって、

「なんでリシア教えてくれなかったんだよ!」

なんて思ってしまったけど――全部、教えてくれていたのだ。


……そりゃ、リシア不機嫌にもなるよね。


カイルの暴走だって、本来“僕が止めるべき”だった。


本当に申し訳ないことをしてしまった。

挙げ句の果てに、軽いテンションで

「カイルも治してあげてよ」

なんて、貴重な回復魔法を頼んでしまった。


よくよく考えると、

昨日のリシアの“無表情”とか“怖い”とか思っていたのは、

あれ、完全に僕に怒っていたんだよな……と、反省しかなかった。


---


僕は窓口で角兎の納品について尋ねた。

どういう形で納品すればいいのか。

薬草も、ただ草を渡せばいいとは限らない。


受付にいた酒場のマスターみたいな隻眼の男が

ニヤリと笑う。


「昨日の今日でそれに気づけるなら上出来だ」


依頼は細かく説明が書かれているわけではない。

遂行にはそれ相応の知識、または“知ろうとする姿勢”が必要だ。


「冒険者はならず者じゃない。

 ただ草を持ってくる、ただ獣の死体を持ってくる――

 それだけじゃ冒険者とは言えねぇ」


隻眼の男は続ける。


角兎はどんな形でも構わない。

ギルドに持ち込めば解体もしてくれる(もちろん有料)。

討伐の証明だけなら角で十分だ。


肉はおまけで、

希望すれば干し肉に加工するサービスもあるらしい。


薬草は種類ごとに規定が違うが、

根本をしっかり縛り、生薬成分が弱らないよう

濡れた革袋で包むか、

劣化停止の付与された袋に入れるのが最良とのことだった。


(……それなら、あるじゃないか)


僕はリシアにお願いした。


魔の平原の隅っこで狩りまくった角兎。

アーシェルにたどり着くまで食料にした角兎の角。

薬草の勉強のために採っていた各種素材。


リシアが収納空間からそれらを次々と取り出す。


リシアのアイテムボックスは今さらながら凄い。

街で見た物は収納力も劣化防止も弱く、

大きな旅行バッグほどの大きさで、それほどの容量がなくても金貨10枚はくだらなかった。


リシアの布袋は本当に小さくて、けれど見た目に反してとにかく何でも入る。

初めて野宿をしたとき、巨大なテントが出てきたときは本当に驚いた。




角兎の角がカウンターに“ゴロッ、ゴロッ”と積み上がり、

薬草の束も次々と置かれていく。


そういえば――

カマキリの鎌とか、蜘蛛の外殻とか、

糸腺とかいう器官もお金になるってリシアが言っていたっけ?

それからオオムカデの毒腺やアギトも高く売れる、とか。


森で採っていた虫素材も上乗せして置いていく。


そのたびに周囲の冒険者のざわめきが大きくなり、

最後にトカゲのような魔獣の喉にあった石が置かれた瞬間、まるで時間が止まったかのようにギルド全体が静まり返った。


僕は思わず周囲を見回す。


みんな、目が点になっていた。

酒場の隅で朝から飲んでいた男は、

口を開けたままジョッキを止めている。


別のテーブルでは、

一昨日見かけた冒険者パーティーがひそひそと話している。


「いや、嘘だろ……?」

「昨日カイルに絡まれてた新人だろ?」


隻眼の受付の男は、

最初こそ眉を寄せていたが、

カウンターに並ぶ角、薬草、虫素材の山を見て、

やがて目を細めた。


「……見た目からは想像もつかねぇが、

 お前さん、相当歩いてきたな?」


「え、あ、はい……まあ……」


「角兎の角、全部“南ステム”のやつだな。

 この太さは北平原のじゃねぇ。大型個体が多い地域のだ、それにしても特大だな。

 ……ラクナ寄りの個体がほとんどか?それにこの質。

 そんでアイアンタランチュラ、最後はモアの秘石かよ。

 ……勘弁してくれ」


僕は思わず固まった。


(角にそんな違いあるの……? ていうかモアの秘石って何!?)


横のリシアは何事もなかったかのように

静かな表情で隣に立っている。


受付の男は僕ではなく、リシアをちらっと見る。


しかしリシアは涼しい顔で首をかしげるだけだった。


「依頼通り、角兎の討伐の証と薬草でございます。

 あと、多少の素材がございます」


「……そうだな。依頼通り、だ。

 それと“多少”の素材、な」


男は額に手を当て、軽く笑った。


背後の酒場席が再びざわつき始める。


「なんなんだあの銀髪パーティー!」

「あれモアの素材だぞ……中級上位でも死人が出るやつだ」

「ステム南端の大型角兎なんか、俺でも逃げるって……」

「いや無理だろ普通。初級が行ったら即死だ」


好き放題な感想が飛び交う。


いやいやいや、

そんなつもりじゃなかった、と否定したいけれど、

弁解するタイミングが見つからない。


(なんか……ややこしいことになってきた?)


受付の男は僕に向かって穏やかに言った。


「新人でこれだけ揃えて持ち込むやつはそういねぇよ。

 しかも品質もやたら良い。

 薬草も根元の処理が丁寧だし、劣化もねぇ。

 ……指導者が良いんだろうな。っていうか、お前たち何者だ?」


そう言って、じっとリシアを見る。


リシアはなぜだか自慢げに答えた。


「ユウはお教えした通りにちゃんと採取しただけでございます」


受付の男はしばらくリシアを見つめ、

やがて柔らかくため息をついた。


「……銀髪銀眼の魔術師、か」


ぽつりと呟く。


そして、面倒くさそうに肩をすくめた。


「まあいい。裏に来い。

 ここじゃ何かと面倒だ」


促されるまま、

僕たちはギルド奥へと通された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ