始まりと終わりの街
何日かの旅を終え、僕らは“始まりの街”に辿りついた。
リシアは言った。
「始まりと終わりの街、アーシェルにございます」
かつてこの地は、古の大災厄で滅びた文明の灰に覆われていた。
けれど、ひとりの旅人がその灰の上に種をまき、小さな芽が生まれたという。
その芽が「再びの命」を象徴し、人々はこの地を
灰より生まれし地”=アーシェル呼ぶようになった。
いまでは新米冒険者たちの出発の地であり、
旅を終えた冒険者たちが終の棲家とする、
“始まり”と“終わり”が交差する街になったらしい。
僕はようやく、冒険者のスタートラインに立てたのだった。
***
街は賑やかだった。
街に入るのにそれほど苦労しなかった。
皆、田舎から冒険者や商人、騎士見習いを目指してここにくるらしい。
門にいた鎧姿の人から、
身分証が欲しいなら冒険者ギルド、
商売したいなら協商連合の窓口へ行けと言われ、
僕たちはまず冒険者ギルドへ向かった。
中は酒場然としていて、まるで某RPGの有名な酒場みたいだ。
ただ違うのは――
使い込まれた鎧を着た者、
手指、あるいは腕や足を失った者、
目や耳、鼻に欠損を抱えた者、
不衛生な血肉の匂い。
現代人の僕からしたら、思わず目を背けたくなるような環境の中で、
彼らが自由に笑いあっているという事実だった。
僕は真っ直ぐカウンターへ歩み寄った。
リシアがいるせいだろうか? 皆が僕たちのことを見ていた。
「冒険者登録をしたいんですが」
僕が言うと、カウンター内にいた大柄な男は、肩をすくめた。
「そいつは無理な相談だな」
僕は困惑した。
“こんな小僧に冒険者登録なんて十年早い!”
というやつだろうか?
僕が戸惑っていると、後ろから小柄な影がやってきて。
「ねぇねぇ、にいちゃん? 田舎者?」
僕にそっと耳打ちしてきた。
僕より少し背の低いその少年は、僕の袖をちょいちょいと引いて、
そのまま外へ連れ出してしまった。
彼の名はカイル。
自由都市リベル・オルムに拠点を置く、
“暁の盾”と呼ばれるパーティーに所属している冒険者らしかった。
「こんな目立つ子、連れてさ、素人丸出しの質問したら鴨にされるよ」
カイルはリシアを見ながら言った。
なんでも、冒険者登録は“支部”ではできず、
冒険者見習いとして仮登録をしてからリベル・オルムに行って正式登録
というのが、この世界の常識らしかった。
「こんな綺麗な子を連れてフラフラしてたら、人買いとかヤバい連中に目をつけられちゃうって」
心配になって声をかけてくれたらしい。
僕より年齢はずっと低そうなのに……
なんて、ちゃんとした子なんだろう。
僕が感動しながらリシアの方を見ると、
リシアは視線に気づき、丁寧に頭を下げた。
「申し訳ありません。俗世のことに疎うございまして」
そりゃそうだよね。
ずっとあんな魔境で暮らしてたんだから。
僕は自分の考えの至らなさを思い知った。
“リシアならなんでも知っている”なんて思い込み、甘えだった。
僕は僕で、ちゃんとしないといけない。




